そんな中、私たちの集団から少し離れて未知の採集スポットを探しに出かけていたお父さんが、戻ってくるなり「あの橋の下辺りにたくさん魚がいましたよ」と報告してくださいました。

 大雨による増水後に水位が下がり、本流から切り離されてできた浅い沼地。期待を胸に近づいてみると、何やら見慣れぬ生き物のシルエットが目に飛び込んできました。

「あれ、ナマズちゃいます?」

 よく目を凝らして見ると、全長50センチはあるナマズが沼の底に潜んでいたのです。予想外の大発見に調査隊全体がにわかに色めき立ちます。

 めったにない機会をみすみす見逃すわけにはいきません。まずは大人2人で協力してナマズを逃げ場のない狭いところに追い込む作戦を採ることにしました。子どもたちはその様子を固唾をのんで見守ります。

 作戦は順調に進み、私の網にすんなり頭から入り込んだと思いきや、突然ナマズが暴れ出します。人間に捕まるまいと向こうも必死です。

 網が大きくしなり、ついには網の外へ飛び出してしまいました。足元をぬるりとしたものが通り過ぎていった感触は今でも忘れられません。

 2度目の挑戦では、大きな石の下に隠れようとするナマズを挟み撃ちにし、より慎重を期して網ですくい上げます。

 探究堂で『川の生き物』プロジェクトを開始して以来の大物を捕まえることに成功したのです。

「やったーーーーー!!」

 その瞬間、ぷれりかキッズから思わず歓声があがりました。何とか私たちが持参していたバケツにナマズを押し込み、しばし観察タイムです。

 しげしげと顔を見ると、半開きの口が何とも愛らしい感じです。子どもたちもバケツにかぶりつき、この不思議な生き物をじっくり眺めていました。

 最終的にナマズはまた川に戻してあげることにしました。

 川にはあまり大きな生き物がいないという認識が大きく揺さぶられる経験をした子どもたち。川の生き物探究はまだまだ続きます。

(文/山田洋文)

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山田洋文

山田洋文

山田洋文(やまだ・ひろふみ)/1975年生まれ、京都府出身。教育家。神戸大学経済学部卒。独立系SIerのシステムエンジニアを経て、オルタナティブスクール教員に。2016年4月、京都市内でプロジェクト学習に特化した探究塾の探究堂(http://tanqdo.jp/)を開校。探究堂代表、認定NPO法人東京コミュニティスクール理事。

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