「特に問題なのは、その負荷がいつまで続くのかを社員に明示しない企業が多いことです」(心理カウンセラー・浅賀桃子さん)

 都内のある出版社では、「終わりの見えない忙しさ」からドミノ倒し的に退職者が相次いでいる。2年ほど前まで同社内の月刊誌編集部で働いていた男性は振り返る。

「当時は、編集長と編集者3人、アシスタントのアルバイト1人で月刊誌を回していました。200ページ近い雑誌を毎月つくる人数としてはギリギリでした」

 ギリギリの態勢なのにさらに過酷さは増す。編集者の一人が退職し、仕事量は激増した。会社の幹部は「いずれ人を採用する」と言うが、いつなのかは示されない。そのうちもう一人の編集者も「これでは続けられない」と退職してしまい、編集者は1人になった。明らかに異様な状況に、男性は悲鳴を上げた。

「打ち合わせ先からの帰り道、路上で涙が止まらなくなったこともありました。その状況からいつ抜け出せるのかもわからない。耐え続けるのは無理でした」

 そうして男性は退職したが、その編集部では今も似たような状況が繰り返されている。

 浅賀さんによると、同じように業務が多忙になったとしても、それがいつまで続くのかわかる場合とそうではない場合ではかかる心理的なストレスが大きく違うという。この出版社の場合でも、1人が退職した時点で「○月までに新たな社員を採用する」「○カ月の研修が終わったら、これくらいのスキルを持った人を現場に入れる」などといったフォローがあれば、ドミノ倒しが起こるリスクは多少軽減されたのではないかという。

 余裕のない職場環境は、不調のドミノ倒しを引き起こすだけではない。会話はすべてメールという職場が増え、同僚とゆっくり話す暇もない状況のなか、かつては5月に不調を訴えられていたケースでも、なかなか言い出せず、慢性的にため込んだストレスが6月病として噴き出すケースもあるという。浅賀さんは言う。

「最近はリモートワークも増え、上司が常に近くにいる環境ではない企業が増えています。1人で完結する仕事も多くなり、職場内のコミュニケーションが希薄になってなかなか相談できないと感じる人もいる。すぐに対処していれば重症化しなかったのにと感じることも多いです」

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