「ペットボトルで訓練できないかと言われて、はじめは冗談かと。でも試しに押してみたら、人体への心臓マッサージの感覚と意外なほど似ていたんです」

 様々なペットボトルで、CPRの時にかかる荷重とその時の変形量を調べてみた。すると「サントリー 南アルプスの天然水(550ml)」の空の状態のボトルが、世界的に使われている訓練用人形とよく似た変形特性を持つことがわかった。

 ところで、なぜCPRが必要なのか。AED(自動体外式除細動器)が普及した一方、誤解もあると小澤さんは説明する。

「心臓が原因で倒れた直後、細胞はまだ死んでおらず心室細動という痙攣している状態です。これを電気ショックで正常な動きに戻すのが除細動。AEDがリセットなのに対し、CPRは手押しポンプ。脳や心臓の細胞は糖や酸素を失うとすぐに壊れ再生しない。脳と心臓に血流を維持、糖や酸素を届けることで、心室細動が維持されAEDによるリセットのチャンスは延長されます」

 過去には富士山の8合目で倒れた人に心肺蘇生を続け、30分後に到着したAEDで除細動され蘇生した例があるという。

 空のペットボトルと人の形を描いたシートがセットになったキットは、講習を受けた人が家に持ち帰って家族にも伝えたくなるよう、ポップなデザイン。心停止の7割が住宅、つまり家庭で起こっている。自分が倒れた時に救ってくれるのは家族だ。

「過去に私たちの講習を受けた人が、心停止で倒れた人にCPRし、無事に救命した事例も出ています」(玄正さん)

 ファストエイドではこのキットの量産を目指し、5月31日までクラウドファンディングで支援を募っている。23日現在の達成率は77%だ。(編集部・高橋有紀)

AERA 2019年6月3日号