今月18日に、南池袋(東京都豊島区)のグリーン大通りで行われたイベントにブースを出展した玄正慎さん(撮影/編集部・高橋有紀)
今月18日に、南池袋(東京都豊島区)のグリーン大通りで行われたイベントにブースを出展した玄正慎さん(撮影/編集部・高橋有紀)
人体のシルエットがある訓練用キットを使うことで、圧迫する位置が正確にわかる。サントリーの協力のもと、安全性も確認済み(撮影/編集部・高橋有紀)
人体のシルエットがある訓練用キットを使うことで、圧迫する位置が正確にわかる。サントリーの協力のもと、安全性も確認済み(撮影/編集部・高橋有紀)

 いざという時に命を救う心臓マッサージを、より多くの人に身につけてほしい。そんな思いで生まれた訓練キットの心臓部は、「ベコベコ感」がそっくりだという空のペットボトルだ。

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 DJが鳴らすノリのいい音楽にあわせて、ベコベコという音が鳴る。参加者が両手で押すのは空のペットボトル。何をしているのかって? 心臓マッサージによる心肺蘇生(CPR)の訓練だ。心肺蘇生の訓練といえば、不気味な人形の胸を押したことがある人もいるだろうか。あの人形や神妙な空気は、どこにもない。

 人の形が描かれたボードにセンサーが入っており、胸の位置に置かれたペットボトルに荷重がしっかりかかると周囲に白いライトがつく。力を抜くと赤に変わる。派手な光と音の中、笑顔で手を叩きリズムを取っているアロハシャツ姿のスタッフは、一般社団法人ファストエイド代表理事の玄正慎さんだ。

 玄正さんは元々、アプリのプランナー。電車内で突然倒れた人に出くわしたのをきっかけに、緊急時に近くの医療従事者などの助けを呼ぶアプリのアイデアを思いつき、緊急通報アプリ「Coaido119」を開発した。119番通報と同時に、周囲にSOSを発信できる。

「開発にあたって当事者インタビューをするうち、突然死の問題の深刻さ、遺族の傷の深さに気がつきました」(玄正さん)

 年間7万人以上が突然の心停止で亡くなっている事実。救急車が到着するまでCPRを続けると救命率は約2.5倍になるにもかかわらず、心肺停止者の半数はCPRが行われていない。さらに、現場に居合わせたとき自分が「応急手当ができると思うか」の調査には、57%もの人が「できない」と回答している。

 身近な人の突然死を体験した人は、なぜ救えなかったんだろうとの思いを抱え続けることになる。アプリ開発と並行してCPRの普及に取り組むと決め、ファストエイドを立ち上げた。

 気軽で簡単でよくわかる体験法はないかと考え、行き着いたのがペットボトルだ。ファストエイドで共に代表を務める救急救命士の小澤貴裕さんが言う。

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