走るリスクとしてよくあげられるのが、関節や筋肉への負担だ。アールビーズの「ランナー世論調査2017」によると、「ランニングによって『痛み』を抱えている部位」について、「特になし」と回答したのは4割以下。6割以上の人は膝や腰などに痛みを抱えていることになる。

「歩いているときはどちらかの足が地面についていますが、走っていると両足が地面から離れて宙に浮く瞬間があります。着地のときの片足の負担は体重の約3倍。スピードが上がれば負荷も増えるから、走ると膝を痛めやすいのです」(坪田医師)

 もちろん、走ることで得られる効果もある。走っている最中は通常以上に酸素が必要なため、心肺機能が鍛えられる。やる気や集中力を高めるドーパミン、心のバランスを整えるセロトニン、気分の高揚や幸福感を与えてくれるβエンドルフィンというホルモンも分泌される。走ったあとにすがすがしい気分になったり、満足感を得られるのはこのためだ。

「これらは走る以外の運動でも得られますが、ある程度負荷が必要です。『走るより歩くほうがいい』という声もありますが、ゆっくり歩くだけでは難しい。80歳、90歳の方なら散歩ペースでも十分かもしれませんが、若い人なら早歩きやジョギングがよいでしょう」(同)

 東京都健康長寿医療センター研究所の青柳幸利医学博士(56)は、体にもっともよいのは「中強度の運動」であると指摘する。

「過度な運動をすると活性酸素が体内に出過ぎてしまい、人間の細胞や遺伝子を酸化させ、傷つけます。アスリートは風邪をひきやすいというのは本当で、過度なトレーニングで抵抗力が落ちてしまうのです。一方で、軽すぎる運動では効果が出ない。『ちょっとキツイな』というぐらいが、一番いいのです」

 その根拠となるのが、青柳博士による「中之条研究」だ。群馬県中之条町の住民5千人に00年から18年以上、24時間365日の身体活動を調査。そのデータを収集、分析した結果、身体活動、歩行と病気予防の関係性が見えてきた。ここまで大規模で長期間にわたる研究は、世界でも類を見ない。そこで導き出された“黄金律”が、1日8千歩、そのうち「中強度20分」で、うつ病や認知症、がん、動脈硬化、骨粗鬆症、糖尿病など、多くの病気が予防できるというものだ。

「『もう限界!』という運動をしたときの半分程度の酸素が消費されるのが『中強度』で、免疫機能の代表格ともいえるNK(ナチュラルキラー)細胞が活性化します。健康で長生きできる体を作り出す究極の運動です」(青柳博士)

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