だが2年後、国際協力局参事官として外務省に戻ることになる。また弾けなくなってはいけないと、今度は朝6時に起床して出勤前に1時間半ピアノに向かい、週末は1日5時間ほど練習した。この練習量は、現在も平均して保っている。

「その気になれば時間は作れます。人生に仕事と違う世界に没頭する時間は必要ですし、仕事以外に情熱を注ぐものを持つ人には『また会いたい』と思わせる何かがある。それが結果として、仕事にもつながっていくのだと思います」 

 現在、パリの公邸で週3回ほど主催する晩餐会は、大江さんの演奏で開始する。欧米人には音楽愛好家が多く、「アンバサダーピアニスト」の演奏は、注目の的となっている。OECD内でも、大江さんのピアノは有名だ。

「コンクールの時は、各国の大使や事務局の方々が予選の結果をネットでチェックしていて、通過するとお祝いのメッセージが届くんです。今回は決勝の翌日早々、グリアOECD事務総長から『結果はどうだった?』という電話がかかってきましたよ」

 音楽好きな妻の支えもある。

「彼女は自称“マネジャー”です。先生から受けた注意を忘れてはいけないと、レッスンに一緒に来て録画してくれるんですよ」

 次の舞台は9月、公邸でベルリン・フィルのチェリストとの共演が待っている。(ピアニスト、音楽ライター・船越清佳)

AERA 2019年5月20日号