「『ちょっと待ってください。これはショーじゃないんですよ。個展なんですよ』とたしなめられて、『そっかー』って(笑)。展覧会を意識して作っていったら、自然の流れでこういう会場構成になりました。やっぱり自分が生きてきた世界はエンターテインメント。展覧会なのに、ライブのように照明さんと打ち合わせもしたりする。『スモーク足りないかな。もうちょっと足してから見てもいいですか?』みたいな会話もありました。そもそも、主役の作品が見えなくなってしまうので、スモークをたいている展覧会ってないですよね。自分でスモークの調整をリクエストしながら、『これは何のイベントなんだろう』って(笑)」

 この個展で「一番のお気に入りの作品」を尋ねると、「どの作品が好きというより、この劇場全部が“一番好きな作品”になったかな」。

 誰も見たことのないようなアートの展覧会場で、作品たちは会場に負けないほどの強烈なオーラを放っている。作品を紹介する前に、香取さんとアートの出合いについておさらいしておこう。

「絵を描いたり、写真を撮ったり、自分で作品をつくることが好き」「きっかけがあれば個展を開きたい」

 2015年10月、主演映画「ギャラクシー街道」(三谷幸喜監督)のAERA本誌のインタビューに、香取さんはそう答えている。

「ざっくり振り返ると、子どもの頃から絵が好きで描いていたんです。みなさんと同じで、授業中に授業を聞かないでノートとか教科書に落書きしたり、それがちょっとはみ出て、机に落書きしてしまったり、とかね。次にスケッチブックに描くようになったら、今度はもっと大きなスケッチブックに描きたいと思うようになって」

 近くにあった段ボールに描き始めたのが、今から「たぶん」10年くらい前のことだ。基本的に「昨日の記憶もない」という香取さんだが、今回展示されている絵のうち、日付が書いてあるものを見ると、だいたいその頃が本格的な創作活動の始まりと言っていいらしい。

「自分のキャラクターで、黒いウサギの黒ウサギっていうコがいるんですけど、そのコを描き始めたのが30歳くらい。だから10年か12年くらい前。そこからキャンバス(に描くこと)を知ったという感じです」

(ライター・福光恵)

AERA 2019年5月13日号より抜粋