間もなく次の段階の臨床試験が、日本だけでなくアメリカやヨーロッパ、アジアなど10カ国で実施される見通しだ。275人の再発頭頸部がん患者を二つのグループに分け、従来の治療法を受けた群と、光免疫療法を受けた群の効果を比較する。日本では国立がん研究センター東病院も含め、10カ所程度の医療機関が参加する予定だ。

「従来の治療法よりも優れていることが確認できれば、新たな治療法として受け入れられると思います。うまく進めば数年後には治療を受けられる可能性もあります」(同)

 EGFRは頭頸部がん以外にも、大腸がんや胃がん、食道がん、胆道がん、一部の膵臓(すいぞう)がんなど、さまざまながんに発現するとされ、光免疫療法を応用できる可能性は高い。

 国立がん研究センター東病院では、食道がんを対象にした臨床試験が予定されている。食道がんは体の外から赤色光を当てても患部に届きにくいため、消化管の検査などで使われる内視鏡(胃カメラ)を利用して照射するという。内視鏡の先端から、赤色光が出るので、食道や胃に挿入し、確実に光を当てることができる。土井医師は言う。

「日本が持つ内視鏡の開発力や治療の技術力は、世界でもトップレベルです。そのため以前から、内視鏡を用いた食道がんの光免疫療法ができないかと院内の消化管内視鏡グループの医師たちが検討を重ねてきました」

 ただし、すでに臨床試験が始まっている頭頸部がんと大きく異なるのは、再発がんではなく「比較的早期」の食道がんも対象にする点だ。

 通常、局所にとどまっているがんは手術や放射線化学療法(放射線治療と抗がん剤投与の併用)で根治を目指すことができる。しかし体への負担が大きいため、高齢や腎機能が悪いといった理由で治療を受けられないケースもある。光免疫療法は体への負担が軽いため、今回の臨床試験はこうした患者を対象に行うという。

 また食道がんの場合は、手術可能な場合でも術後は食べ物が取りづらくなったり逆流したりする摂食障害が起こりやすくなる。

「高齢で大きな手術に耐えてがんが治ったとしても、手術後に食事を楽しめなくなったら、QOL(生活の質)を大きく下げてしまいます。ベストは光免疫療法による根治ですが、がんの進行や症状を抑えることができれば、QOLを維持して天寿を全うできる可能性もあります。高齢化が進む中で、光免疫療法は治療のオプションとして大きな役割を果たしていくのではと期待しています」(土井医師)

 内視鏡を使えば、胃がんや大腸がんなど、体外から光が届きにくい消化管にあるがんの治療にも可能性が広がる。さらに土井医師はこう話す。

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