マキタスポーツ/1970年、山梨県生まれ。俳優、著述家、ミュージシャンなど多彩な顔を持つ。スポーツ用品店だった実家の屋号を芸名に。著書に『すべてのJ-POPはパクリである』『一億総ツッコミ時代』ほか。映画「苦役列車」でブルーリボン賞新人賞受賞。新刊に『越境芸人』(東京ニュース通信社)
マキタスポーツ/1970年、山梨県生まれ。俳優、著述家、ミュージシャンなど多彩な顔を持つ。スポーツ用品店だった実家の屋号を芸名に。著書に『すべてのJ-POPはパクリである』『一億総ツッコミ時代』ほか。映画「苦役列車」でブルーリボン賞新人賞受賞。新刊に『越境芸人』(東京ニュース通信社)
イラスト:大嶋奈都子
イラスト:大嶋奈都子

 お笑い芸人のマキタスポーツさんによる「AERA」の連載「おぢ産おぢ消」。俳優やミュージシャンなどマルチな才能を発揮するマキタスポーツさんが、“おじさん視点”で世の中の物事を語ります。

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 流行語大賞なるものがある。2018年は「そだねー」が大賞だったとのこと。

 毎年思うが、私の知らないところで何をやっているのだ。タイトルがイヤに大仰だが、これは「言葉のお葬式」が正確なんじゃないのか? 「現代用語の基礎知識」という古墳に封じ込めるおまじないの儀式が本当のところだろう。お茶と上等なお菓子でもぐもぐタイムしながら、やくみつる氏あたりが「では私の“奈良判定”ならぬ“やく判定”で」とかますや、どこかの太鼓持ちが「あ、じゃそれ私もミートゥーで!」「やくさん、ハンパないって!」なんて感じに軽口で乗っかり、やれやれなおっさんずラブ状態で事が決定していくのだろう。楽しそうじゃないか。

 平成もいよいよ終わりである。そんななか、私が一人有識者会議として“裏流行語大賞”を決めたいと思う。賢明なアエラ読者にはその見届け人になってもらいたい。

「上から目線」

 これじゃないだろうか。

「上から目線」が使われるようになったここ10年ぐらいのことだが、私が目撃したのは1990年代の半ばあたりか、確か松尾スズキ氏によるエッセーでそれを目にしたのだと記憶する。彼独特の視点でその心のありようを面白おかしく書いていてハッとした。

 現代日本人は“位置”に対して敏感である。自分と自分以外の配置を殊のほか気にするのだし、それは「ポジション」とか「マウンティング」などという言葉にも後々結び付くことになる。

 私がこの言葉こそ裏流行語大賞だと思うのは、もはや「流行語」という認識すら通り越してしまっているほど「便利」だから。便利の前には「不便」があったということ。つまりこの言葉にこそ、日本人の泣き所が詰まっていたのであり、そこを簡単にクリアすることができた結果だ。

 思えば平成は「イチャモン社会」だった。昭和までは許された、あるいはギリギリ90年代までは我慢した「尊大」や「権威」は取り締まりの対象となる。曰(いわ)く「なんでそんなに偉そうなんだ?」と。根拠曖昧で雑な権威主義より、顧客重視の丁寧なカスタマーケア。結果、まるでクレーマーが主導権を握ったかのようになった。確かに、社会のいたるところには自動的に決まってしまっていた「上」があり、私は「下に置かれがち」という抑圧はあったとは思う。しかし、昨今は医者や、教師まで「上から目線かよ」の餌食になっているのだし、かなりのおっさんがさらに上の老人に「上から目線で言いやがって!」と毒づくまでになるとは。こうなってくるとパラレルワールドだ。何が上からかはわからない。単にわがままを言ってるだけのことが、この言葉によって正当化されだした。

「上から目線」があるなら、「下から目線」はないのか。あるいは「平行目線」はどうだろう。「おまえわざと下から目線になってるだろう」と牽制する言葉として流行りそうだ。または「なんでキミはそんなに平行目線なんだ? 下からが普通だろ!」と後輩に言える。「キレる」に「順」と「逆」があるという概念を作ったのは松本人志氏である。「逆ギレ」は皆に馴染(なじ)んだ。「目線」も「上」「中」「下」と使い分けたらどうだろう。

AERA 2019年1月21日号

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マキタスポーツ/1970年、山梨県生まれ。俳優、著述家、ミュージシャンなど多彩な顔を持つ。子供4人。スポーツ用品店だった実家の屋号を芸名に。著書に『すべてのJ-POPはパクリである。』ほか。映画「苦役列車」でブルーリボン賞新人賞受賞。近刊に『越境芸人』(東京ニュース通信社)。『決定版 一億総ツッコミ時代』(講談社文庫)発売中。

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