卒業生は続けた。

「一番記憶に残っているのは、先生が『触りたかったんだー』って言ったことです」

 ようやく解放された卒業生は、朝までトイレで泣き続けた。勇気を振り絞って登校したが教室には行けず、保健室に駆け込んだ。打ち明けられた女性の養護教諭は驚きながらも積極的には動かなかったという。

「自宅生の同期たちが『親に相談するしかないよ』と言ってくれたので、大会の時に観戦しにきた母に打ち明けました。当時、秋本先生には『強くなるためには親とも話すんじゃない』と連絡も取らせてもらえず、親が試合日程を独自に調べて応援に来てくれた時しかチャンスがなかったんです」

 母親は同校の生徒指導教諭に事実を打ち明けたが、学校側が秋本氏を処分することはなかった。卒業生はその後も秋本氏と2人きりになることを極力避けながら寮生活を続けざるを得ず、ストレス性の過呼吸や貧血に苦しめられたという。

 秋本氏は教え子2人の告発をどう受け止めるのか。今なお女子寮として部員を預かっている自宅を訪ねると、玄関先で太い二の腕を組んだまま約1時間取材に応じ、セクハラ行為を全否定して、こう述べた。

「マッサージ自体、保護者の目の前で肩関節を触るようなことはありますが、2人きりで密室でというのは相手が男子であろうが女子であろうが一切したことはありません」

「(女子部員は)男女恋愛禁止なのに自分が彼氏を作ったことを他の部員に見つけられて、自分の居場所がなくなることを恐れて、あることないこと話したというだけのことでしょう」

「彼女の母親に恋愛感情を持ったり伝えたりしたこともありません。自分の子供の面倒をきちんと見てほしいと伝えただけです。その子も卒業生の子も、精神的に浮き沈みが激しくて虚言癖があるんです」

 卒業生の母親に秋本氏の反応を伝えると、こう答えた。

「娘から打ち明けられたときは震えが止まらず、何であんなところに預けてしまったのかと後悔しました。当時は学校とも相談し、娘を傷つけずに最大限守れる方法を探りましたが、人質に取られているようで思い切った対処ができなかった。娘が当時、自分さえ我慢すればと最後まで耐えて卒業したことで、今回新たな被害者を生み出してしまった。にもかかわらず、自分の保身のために娘たちを嘘つき呼ばわりするなんて、許しがたいと思います」

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