明るい店内で、医療用ウィッグをスタッフに装着してみせる赤木勝幸さん(写真右)。抗がん剤による爪の変色などもネイルで対応している(撮影/編集部・澤田晃宏)
明るい店内で、医療用ウィッグをスタッフに装着してみせる赤木勝幸さん(写真右)。抗がん剤による爪の変色などもネイルで対応している(撮影/編集部・澤田晃宏)

 医療の進歩でがん患者の生存率が高まり、働く世代も増えている。同時に関心が高まっているのが「アピアランス(外見)支援」だ。先駆的な役割を担うサロンが東京に進出し、注目を集めている。

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「抗がん剤の投与が始まると、髪が抜けます。必要なら医療用ウィッグを検討してください」

 そう担当医に告げられたが、「買い方や選び方などの具体的な説明はなかった」と、埼玉県の社会福祉法人職員、野原千枝さん(40)は振り返る。それでも、病院内の患者相談センターに関係資料があることだけは教えられ、医療用ウィッグのパンフレットを開いた。「30万円~」という文字が目に飛び込んでくる。高い。後にそれが一般的な価格帯と知るが、そう感じた。

 ただ、抗がん剤治療が始まるまで2週間程度しかない。十数年通い続けている美容室に相談したが、医療用ウィッグの取り扱いすらなく、野原さんはスマホで情報を収集。6万円の医療用ウィッグを見つけた。安くて怪しいとも思ったが、実際に話を聞こうと足を運んだのが「アピアランスサポートセンターTOKYO」(文京区)だった。

 運営するNPO全国福祉理美容師養成協会(略称ふくりび、愛知県日進市)理事長の赤木勝幸さん(50)が説明する。

「人毛の医療用ウィッグで、長髪と短髪の2種類のみ。自分の好みにカットし、カラーリングやパーマなども可能です」

 かつら業界でよく使われる、日本人の髪質に近いと人気がある中国人の髪で作る。最近ではヘアドネーション(髪の寄付)の活用も広がるが、髪の長さや質にばらつきが出る上、日本人の髪は傷んでいる場合が多く、耐久性が悪い。営業や広告の費用はかけず、6万円の価格設定を実現した。「一般の方がだいたい美容院にかける年間の費用」と赤木さんは話すが、大事に使えば1年半~2年は続けて使えるという。

「どうしても夏は汗をかき、毎日洗う必要もありますが、涼しい季節などは裏地の油分を洗うだけでも大丈夫です」

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