生活環境デザイン塾は、家族介護者や施設職員にとっても、学ぶところが大きいという。現在、当事者や施設経営者などが中心になり、生活環境にまつわる知を集積中だ。

「『生活』には、買い物、整容、歩行、食事、嗜好、趣味、現病歴、既往歴、家族歴など、多くの要素が絡み合っています。家族や介護施設職員、医師、ケースワーカー、当事者の情報を記録してAIで構造化し、その人に合った環境をデザインすることが、今後一層重要になるはずです」(同)

 もちろん、こうした情報を得るためには、当事者と良好な関係を築くことが条件になる。

 認知症情報学の可能性の一端を、竹林特任教授は語る。

「たとえば、認知症にどんなツールがあれば、生活の助けになるか。薬を飲むタイミングを教えてくれるアプリか、食事時を知らせてくれるアラームか。どんなものになるかはわかりませんが、当事者の困りごとのニーズを集約して一緒に作っていけば、企業にとっても、ビジネスチャンスになるはずです」

 自治体の取り組みも進んでいる。福岡市では認知症フレンドリーシティ・プロジェクトを推進、認知症カフェの開設促進や認知症にやさしいデザインガイドラインの策定などを行っている。「認知症サポーター養成講座」などの事業に加え、2016年から2年間、認知症ケア技法「ユマニチュード」の実証実験も実施した。その結果、認知症のある人の表情が穏やかになり、「ありがとう」の言葉が出るようになった。介護者側の負担が減ることも確認された。

 今年度からは家族介護者向け講座や病院・介護施設向け研修のほか、児童・生徒向け講座や地域向け講座なども実施している。

 10月中旬、福岡市・東箱崎小学校には4年生全員が集まっていた。プログラムは、「認知症キッズサポーター養成講座」で認知症の基礎を学び、フランス発の認知知症ケア「ユマニチュード講座」で当事者への接し方を学ぶという2段構えだ。

 介護福祉士の濱名勇さん(35)が集まった約50人の児童に話す。

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