「怒り」では、「悔しくて勝ちたかったから成功した」とアスリートが言うケースは多い。

「怒りはあってもいい。ただ、どんな時に怒りが発生するか、自分自身への怒りなのか、指導者など他人に対する怒りなのかを明確にする必要があります」

 怒りには2種類あるという。外的要因によるピンポイントのものと、特性としてもちあわせている怒りやすさだ。

「ピンポイントでは、深呼吸してよい状態にすることはできます。特性では、怒りを緩和する一番のアプローチは共感力を高めることであると言われています」

 アスリートへのメンタルサポートを提供している国際メンタルコーチング協会代表理事の太田祐也さん(40)は、コーチングの際に「怒り」や「嫉妬」といったネガティブな感情は「ポジティブな感情の反転」としてとらえ、ネガティブな感情の肯定的意味を探していくという。

「普段の言葉遣いにも催眠的な暗示の要素があり、コーチに『なぜこんなこともできないのか!』と言われると、できない理由を探し、できない自分をイメージしてしまう。それではセルフイメージが縮こまるので、言葉を厳選しています」(太田さん)

 怒りで身を滅ぼさないためにはどうしたらよいのか。

「怒りはひとつの手段なはずですが、目的に対して不適切だったらどんなことをするといいのか。怒りをより適切な手段に置き換えるのが大事です」(同)

「感情の書き換え」には、ダンシング・アインシュタインのファウンダーCEO(最高経営責任者)、青砥瑞人さん(33)も注目する。この会社は脳神経科学を教育や人材育成などの分野へ応用する研究開発やコンサルティングを行っている。

 研修で多いのが、ストレスマネジメントだ。ストレスというとネガティブな印象を受けるが、生物にとって必要だからこそ備わっている重要な機能だという。

「事前にやっておけばよかったのにやっておらず、納期が迫ってくるとなぜかすごいパフォーマンスが出る」というよくある現象は、ストレスのポジティブな作用だと言う。

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