試合中も普段の生活でも、常に自分を研ぎすましてきた。その様子も、周囲から見れば「孤独」と映ったのかもしれない(撮影/写真部・小原雄輝)
試合中も普段の生活でも、常に自分を研ぎすましてきた。その様子も、周囲から見れば「孤独」と映ったのかもしれない(撮影/写真部・小原雄輝)
プライベートでは「究極は一人」。こぢんまりとしている方が好きだと笑顔を見せる。神社仏閣巡りが好きなことでも知られる(撮影/写真部・小原雄輝)
プライベートでは「究極は一人」。こぢんまりとしている方が好きだと笑顔を見せる。神社仏閣巡りが好きなことでも知られる(撮影/写真部・小原雄輝)

 サッカーワールドカップ(W杯)ロシア大会で、日本代表の監督として過去最高に並ぶ16強入りを成し遂げた西野朗氏(63)。課せられた使命は、限りなく困難だった。第3戦のポーランド戦、あの采配は、孤独との闘いでもあった。W杯が終わって約1カ月。日本代表の指揮官は、「トップの孤独」とどう向き合ってきたのか――。AERAの単独インタビューに応じた。

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*  *  *

――今回の大会中、最も葛藤したのは?

 それは、3戦目のポーランド戦が終わった瞬間です。自分の判断はどうだったのかと葛藤しました。ご存じのように、後半最後の10分で、攻めずに自陣で球を回す作戦を取りました。その結果、警告数が少ない日本の1次リーグ突破が決まりました。だけど、試合が終わった瞬間、あの判断があれで本当によかったのかと、自問自答をしました。

――自問自答……。それはどういうことですか。

 日本はベスト16というチームとしての最低限の目標は達成しました。結果が出たことに対してプラスに捉えられた。だけど正直、自分はそうは思わなかった。積極的に攻めていくという自分の信条やスタイルに反し、「他力」にすがり、ブーイングを浴びながらのプレーを選手に強要しました。選手たちも、ああいう戦い方で勝ち上がったとして、果たして100%全員が納得し、喜びだけを持っているとは思えなかった。

――あの最後の10分のプレーでは、同じように納得がいかないというサッカーファンも少なくありませんでした。

 当然だと思いますし、あの時のブーイングも仕方がないと思いました。特に、サッカーを応援してくれている子どもたちは、1、2戦ではアグレッシブに戦った日本チームが、3戦目のポーランド戦では負けているのになぜ日本は攻めないのかと父親に尋ねて、父親も答えられなかったという話を聞きました。子どもたちには夢を持ってほしいと思っています。なのに、そうした話を聞くと、なおさら納得いかない自分がいました。

――采配に対する後悔の念があったのでしょうか。

 勝ち上がったけれど、あの決断が決して正解だとは今も思えません。自分で下しながら、グループステージを突破することを考えた上での判断ということでも、素直に受け入れられない思いがあります。戦う意思のない、負けた状況を認めながらの戦いを進めましたから。ポーランド戦だけをとったら、後悔しかありません。だから、翌朝まで自問自答しました。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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