東浩紀 “首相の嘘”は「囚人のジレンマ状況から生まれた構造的なもの」 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

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東浩紀 “首相の嘘”は「囚人のジレンマ状況から生まれた構造的なもの」

連載「eyes 東浩紀」

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東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン代表。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン代表。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

最近の政局は「囚人のジレンマ」の状況に…(※写真はイメージ 撮影/写真部・松永卓也)

最近の政局は「囚人のジレンマ」の状況に…(※写真はイメージ 撮影/写真部・松永卓也)

 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

*  *  *
 囚人のジレンマという言葉がある。ばらばらに収監された2人の囚人は、相互不信にとらわれた結果、双方にとって不利な決断を下すことがある。その状況を意味する、ゲーム理論上のモデルである。

 この数カ月、政局を見てはその言葉を思い出している。野党は、与党は嘘つきで、倒すためなら手段を選ぶべきではないと考えている。与党は、野党は悪質なクレーマーで、少しでも弱みを見せたら終わりだと考えている。結果として、与党は不必要な嘘をつき、野党は国民向けのアピールに終始し、政治は空転し続けている。

 以前に記したように、筆者はいわゆるモリカケ問題に興味がない。政治家が周囲の声を聞き便宜を図るのは当然であり(ロビイングとはそもそもそういうものである)、贈収賄や背任がなければ犯罪ではない。教育行政が首相夫人や友人に振り回さ れたのは由々しきことだが、犯罪性がないのであれば、世論の反発を受け改善すればいいだけの話である。それがここまで大事になったのはなぜか。

 それは最初に首相が嘘をついたからである。そしてその嘘に引きずられ、官僚が嘘をつき公文書の改竄(かいざん)や破棄にまで手を染めたからである。公文書の改竄となれば、これはもう明らかな犯罪である。現行法で犯罪でないとしても、それは法の不備を意味するだけの話であり、とても看過できるものではない。そしてこの犯罪の起点はたしかに首相の嘘にある。このままごまかし続けることは、さすがに不可能だ。

 しかし同時に考えねばならないのは、なぜ首相は嘘をつく必要があったのかである。首相の人格にすべてを帰するのであれば話は簡単だが、そういうものでもあるまい。この嘘はおそらくは、前述した囚人のジレンマ状況から生まれた構造的なものである。だとすれば、首相が代わっても似た嘘は繰り返されるにちがいない。私たちに必要なのは、その連鎖を断ち切ることである。

 しかしそれはどうしたら断ち切れるのだろうか。野党勢力が拡大し、クレーマー戦略に頼らなくてよくなるのが唯一の道だろう。だがその道もいまはほとんど断たれている。

AERA 2018年6月11日号


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