ネットなどで得た情報を元に、事業計画を立てた。だが、地元出身でもない、しかも若い女性にあれこれと口を出されることを、快く思わない漁師も多かった。漁師との信頼関係をどう築くか。6次産業化を進める以前に、坪内は大きな課題を突きつけられた。

「仕事やる気あるんか!」

 スーツで島を訪れ、漁師からそう言われた坪内はすぐにジャージーを10着購入。翌日からスーツを脱ぎ捨て、うろこまみれで魚の運搬作業を手伝った。当初は「何を言っているのか半分も聞き取れなかった」という島の言葉も、日々けんかを繰り返す中で彼らの口調をまねながら覚え、今では島言葉で漁師たちにゲキを飛ばすほどになった。

 坪内は言う。

「彼らの常識に染まらないと信頼関係は築けないので、まずは100%こちらが歩み寄る。すると彼らのことがよくわかります。わかって初めて任せられる仕事もあるし、私が彼らのことを理解してこそ、外への橋渡しもできますから」

 だが、漁師の意見に合わせているばかりでは、新しい道は開けない。

 例えば、魚の流通や燃料の調達、資金の工面まで様々な面で漁師を支えてきた漁業協同組合(漁協)との関係だ。

 萩大島船団丸が自ら流通も手がけようとすることに、これまで魚の流通を一手に担ってきた漁協は反対した。関係の深い漁協を敵に回したくない船団丸の漁師たちと坪内は、しばしば激しく意見をぶつけ合った。苦境を脱するには6次産業化しかないと信じる坪内は一歩も引かず、時には漁師と取っ組み合いのけんかになることさえあったという。

 11年5月、萩大島船団丸は「六次産業化・地産地消法」に基づく認定事業者に、中国・四国地方で初めて認定された。認定は受けても、魚を買ってくれる顧客がいなければビジネスとして成立しない。坪内は飲食店がひしめく大阪に狙いを絞り、飛び込み営業で次々に買い手を開拓した。

 ところが、営業に忙しく漁の現場に現れなくなった坪内に、漁師から「遊び歩いている」と不満が出始める。

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