「正社員登用の基準があいまい。『家庭を持ったから』『子どもができたから』という理由で登用される男性が多いが、大変なのは独身女性のほうではないのか」

 せめて、資格を取ったり語学を学んだりして将来に備えたいが、自分には補助制度が適用されず、自己負担でしかスキルアップできない。

 正社員にしわ寄せがいくケースもある。人材系の会社で働く女性(35)の職場では、「契約社員が優遇されている」。契約社員が残業すれば残業代もつくが、休日出勤や日をまたぐ業務はざらなのに、管理職の自分にはみなし制度の一律5万円があるだけだ。「仕事のしわ寄せがきている世代もいることを、上層部は知ってほしい」

 就職氷河期世代に限らずとも、非正規雇用者の声は切実だ。量販店でパートとして働く女性(51)は、09年、14 年間正社員として勤務したメーカーをリストラされた。同じ業務内容の正社員の求人を探し、95社を受けたが不採用。「非正規で探さないと仕事はない」とアドバイスをされ、現職にたどり着いた。週5日のフルタイム勤務だが、時給1020円、給与は13万円ほどで、収入はかつての4分の1に減った。14年に離婚、19歳の子どもは高校卒業後働いている。仕事にやりがいは感じるが、立ち仕事で膝が痛い。費用負担を考え、通院を控えている状況だ。

 将来の展望となると、特に悲観的な声が多い。

「いつ切られるかの不安しかない」(多数)に加え、「年金はもらえないと思う」(46歳・男性ほか多数)、「定年前に死ぬしかないかな」(48歳・男性・パート・アルバイト)、「長生きはしたくない。安楽死が法整備されることを望む」(33歳・男性・パート・アルバイト)。

 法政大学の上西充子教授(労働問題)によると、非正規雇用拡大のきっかけは、1995年に当時の日経連が提言「新時代の日本的経営」で打ち出した雇用ポートフォリオだ。従業員を、企業として長期勤続してほしい基幹的正社員と、高度専門職グループ、雇用柔軟型グループの3種に分け、後者ふたつを拡大し、労働市場の流動性を拡大していこうという提言だった。

「それから二十余年、実際日本はそのとおりに進んできたと思います」(上西教授)

 確かに、自由な働き方として、あるいは家事や育児と両立する選択肢として、積極的に非正規雇用を選ぶ人もいる。だが、現状は果たしてどうなのか。

「15年1月、提言に携わった成瀬健生氏は、『もし、いま日経連があるなら、今度は非正規の正規化を提言しているだろう』と発言しています。現状を問題視し、この方針は失敗だったかもしれない、と考えているということではないでしょうか」(上西教授)

(編集部・澤志保)

AERA 2018年2月26日号より抜粋