稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年、愛知県生まれ。元朝日新聞記者。著書に『魂の退社』(東洋経済新報社)など。電気代月150円生活がもたらした革命を記した魂の新刊『寂しい生活』(同)も刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年、愛知県生まれ。元朝日新聞記者。著書に『魂の退社』(東洋経済新報社)など。電気代月150円生活がもたらした革命を記した魂の新刊『寂しい生活』(同)も刊行
なんか彼女にはもっと似合う服があるように思う。アフロが言うのもなんですが… (c)朝日新聞社
なんか彼女にはもっと似合う服があるように思う。アフロが言うのもなんですが… (c)朝日新聞社

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【来日時のイバンカさんのファッションはこちら】

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 ちょっと前の話で恐縮ですが、遠方に出かける用事があり、空港での待ち時間にテレビのワイドショーでイバンカ・トランプさんを見ました。

 思わず凝視。というのも家にテレビがないので、ラジオで「来日したイバンカさんは水色のコート姿で……」とさんざん聞いていたものの実物を見るのは初めてだったからです。なるほどブランドはミュウミュウですか。彼女は歩く高級ブランドと化していたようで、番組ではコートの他にもあらゆるブランドを紹介しておりましたが、我ながら感慨深かったのは、我が心が全く動かなかったこと。

 なんかこういうの……もういいんじゃないでしょうか?

 いや前はこういうの大好きだったんです。でも最近、ある対談企画で私より一回り年下の女性にお会いする機会があり、当日顔を合わせてまず感激したのが彼女の服装でした。濃い青のワンピースに真っ赤なカーディガン。万人向けとはとても言えない強い色彩が、彼女の芯の強そうな雰囲気を可憐に引き立てていた。でもどうみても高価なブランド物じゃない。古着かな? いずれにせよこれを選んで着るのは相当な上級者です。

 で、対談をしてさらに驚いたのは、彼女はずっと年収200万円で暮らしていたというのです。それでこんなお洒落ができるんだ! か、かっこよすぎる! っていうか、お金がないからこそお洒落のセンサーが磨かれたのかもしれない。そう思うと、今後どうなるかわからない我が将来にも熱い希望が湧いてくるのを止めることができません。

 で、現代の「ファッションリーダー」ってこういう人のことなんじゃないかと。

 ファッションってブランドのことじゃない。着る人にも、それを見る人にも、希望を与えるメッセージを発するのが真のファッションの役割だと思うのです。イバンカさんが発していたのは、お金があれば素敵な人生が送れるというメッセージ。それはこの現代においては絶望に至るワナかもしれないのであります。

AERA 2017年12月4日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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