「今年12月までにユネスコの世界遺産委員会に提出が求められているのは、1850年代から1910年にかけての23資産について全体の歴史を理解できる展示戦略の進捗(しんちょく)報告。『第2次大戦中の戦時徴用者』の実態調査の報告ではありません」

 政府は15年から加藤さんを中心に徴用工の実態調査にも取り組んでおり、「過去の文献や新聞記事にはすべて目を通すが、生存者の証言は重要。断られることも多いが、当時炭坑で働いていた日本人、在日韓国人からも多数証言を得ている」。

 なかには徴用を担当していた朝鮮総督府の元役人、徴用者と坑内で一緒に作業をしていた元炭鉱マン、徴用者を引率していた人の証言もあるという。

 加藤さんは映画のダイジェスト版を作成し、それを生存者に見せながら当時の状況を確認する作業もしている。

「歴史問題に関わりたくないと協力に消極的な生存者が多いなか、映画『軍艦島』に対して正しい記録を残すことを韓国当局に求める声明文を出す生存者も出てきました。残されたわずかな生存者の証言を収集し、後の研究者のためにもアーカイブを残していきたい」(加藤さん)

 歴史的な事実を都合よく解釈し、相手の国を罵倒したり、嫌ったりするナショナリズムが燃えさかっている。そうした熱を冷ますには、戦争を知る世代の証言が重要だ。生存者はいずれも高齢で、最高で102歳。時間をかけて聞き取りを繰り返す最中に亡くなる人もいるという。残された時間はあまりない。(編集部・澤田晃宏)

AERA 2017年9月25日号