歌詞の中にはリチャード・ニクソンやスティーヴ・マックイーンをはじめ政治家やセレブたちの人名、ジョニー・キャッシュやトム・ジョーンズといったミュージシャン、ドラッグにまつわるスラング、コピー機やテレビなどの最新テクノロジー、コカ・コーラやリステリンのCMから引用したフレーズなどが皮肉を込めて引用され、当時のアメリカの世相をそのまま映し出してもいる。

 公民権運動をさらに先鋭化させたブラックパワー・ムーヴメントとヒッピーのフラワー・ムーヴメントは、当時のアメリカのカウンターカルチャー(対抗文化)の双璧をなすものだった。ロックやソウルといったユースカルチャーと消費文化は、渾然一体となって政治と世の中を動かしていたのだった。

 約半世紀後の日本。昨年のフジロックフェスティバルでは、ちょっとした騒動が起きていた。ジプシー・アヴァロンというステージで行われる「アトミック・カフェ」のトークショーにSEALDs(シールズ)の奥田愛基が出演することを知った人たちが「音楽に政治を持ち込むな」と批判を始めたからである。

 これに驚いたのが音楽畑の人々だ。音楽評論家の小野島大は「フジロックはもともとそういうイベント。そういうことを言う人はフジロック行ったことのない人」と指摘した。またそれは、常識のはずだった。アジアン・カンフー・ジェネレーションの後藤正文も「政治を持ち込むなって、フジロックのこと知らない人が言ってる」と、ほぼ同じような反応を示した。

●チェルノブイリ以降の衝突 沈黙守るアーティストたち

 フジロックフェスティバルは、当初から環境NGOなどと積極的にコラボレーションしてきたことでも知られている。「アトミック・カフェ」は2011年からフジロックで毎年行われているトークイベント・コーナーだが、そもそもは、80年代の反核コンサート「アトミック・カフェ・ミュージック・フェス」がそのルーツである。出演者は尾崎豊やラフィンノーズ、ザ・ブルーハーツ、BOOWY等、若手中心ではあったものの十分にメジャーフィールドで活躍するロックミュージシャンで占められていた。

「アトミック・カフェ」は同名の反核映画の上映運動でもあった。そうした問題にコミットすることは文化のありかたのひとつであり、そもそもそれが「政治」だと認識されることがなかったのだ。とくに自由と反逆の象徴でもあったロックがそれらに関わることに疑問を抱く人はあまりいなかったように思う。

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