コンサートは、作家の夢枕獏が脚本を手がけたストーリー仕立て。観客795人は、幻想的な音楽と劇の世界に酔いしれた(撮影/岡田晃奈)
コンサートは、作家の夢枕獏が脚本を手がけたストーリー仕立て。観客795人は、幻想的な音楽と劇の世界に酔いしれた(撮影/岡田晃奈)
オーケストラ奏者は、エアスカウターを装着し、そこに映し出された楽譜を見て演奏(撮影/岡田晃奈)
オーケストラ奏者は、エアスカウターを装着し、そこに映し出された楽譜を見て演奏(撮影/岡田晃奈)
バドミントン選手の腕にセンサーをつけ、動きによって旋律が変わる自動演奏の試みも(撮影/岡田晃奈)
バドミントン選手の腕にセンサーをつけ、動きによって旋律が変わる自動演奏の試みも(撮影/岡田晃奈)

 何やら聴き慣れぬ音色が近づいてくる。奏者の姿は見えない。正体は、新たな展開をみせているAI(人工知能)。人間と協調して演奏し、わずか数十秒で作曲もするとか。AERA 9月4日号ではAI時代の音楽を見通すアーティストや動きを大特集。人間と音楽、そしてAIのトリオが奏でる曲とは、一体何か――。

*  *  *

 パシュ、パシュ。観客の息をのむ音さえ聞こえそうなホールの静寂を破ったのは、バドミントンのシャトルの音だ。実は、とあるクラシックコンサートの一幕。オーケストラが見守るステージ前方で、4人のバドミントン選手によるラリーが始まったのだ。その動きに合わせるように、ピアノがポロン、ポロン……と鳴り響くが、ピアニストの姿はない。ひとりでに、不思議な旋律を奏で始めた──。

 8月6日、東京藝術大学のホールで行われたクラシックコンサート「憂飼(うしかい)」。東京五輪を前に、スポーツと科学、音楽の融合をテーマに企画したものだ。藝大とヤマハやブラザー工業、順天堂大学、立命館大学など産学が連携し、最新技術を使った斬新な仕掛けが取り入れられた。

●“試行錯誤”するAI

 バドミントン選手とのコラボは特徴的な試みの一つ。選手の腕には、筋肉の動きを読み取るセンサーが装着され、ラケットを振るとその信号をピアノの自動演奏システムに送信。筋肉の動きに合わせた音楽が即興で奏でられる、という仕組みだ。シャトルを打つ強弱により変わる旋律は、メロディーと言われればそう聞こえなくもない。切ないような、心もとないような……不思議な気持ちになる音色だ。

 最後に演奏されたラヴェルの名曲「ボレロ」の際には、見慣れぬ楽器が加わった。人間の片腕のような形をした、2体のAIスネアドラマー。通常、人間の打楽器奏者はバチでドラムを叩く直前に一瞬力を抜き、しなやかに叩くが、この筋肉の動きを再現したという。

 画期的なのは、求める音を出すためトライ&エラーを重ねる点だ。AIの「強化学習」と呼ばれる領域で、マイクから自分の演奏音を拾い、プログラミングされた目標の音を目指して叩く位置や強さをさらに調節する。

「実は、先日も朝練や居残り練習をしたんです。ちょっとかわいいでしょう?(笑) その甲斐あって、だいぶいい音が出せるようになりました」

 と、担当したヤマハ第1研究開発部の田邑元一部長。このAIドラマー、正確にリズムを刻むことから、指揮者のようにリズムをとる役割もできるという。

次のページ