松浦理英子(まつうら・りえこ)1958年、愛媛県生まれ。78年、「葬儀の日」で文學界新人賞を受賞しデビュー。著書に『親指Pの修業時代』(女流文学賞)、『犬身』(読売文学賞)など(撮影/今祥雄)
松浦理英子(まつうら・りえこ)1958年、愛媛県生まれ。78年、「葬儀の日」で文學界新人賞を受賞しデビュー。著書に『親指Pの修業時代』(女流文学賞)、『犬身』(読売文学賞)など(撮影/今祥雄)
『最愛の子ども』(1700円+税/文藝春秋)私立高校という共同体の中で、「疑似家族」を演じ、生きる女子高校生たちのロマンス。およそ40年の作家生活で小説は8冊目という寡作の作家による待望の新作
『最愛の子ども』(1700円+税/文藝春秋)私立高校という共同体の中で、「疑似家族」を演じ、生きる女子高校生たちのロマンス。およそ40年の作家生活で小説は8冊目という寡作の作家による待望の新作

 大人でなく、男でもない。そのことがもたらす無力さの渦中で、女子高生だけの「疑似家族」とその「目撃者」で作り上げられたロマンスである。

「世の中の主流である男性の支配が及ばないところで、女子高生たちが自分たち主体でロマンスを形成していく様子を書きたいと思いました」

『最愛の子ども』の著者である松浦理英子さんが、AERAインタビューに答えた。

 私立玉藻学園高等部。クラスで最も落ち着きのある日夏は<パパ>。意固地さに苦しみながらそれが魅力でもある真汐が〈ママ〉。大半の生徒が中等部から上がってくるのに対し、高等部から入学してきた空穂が、日夏、真汐という「夫婦」の子として〈王子〉。当人たちも、3人をそういう間柄とみなして動向を「目撃」し、あらぬ「妄想」へと発展させるクラスメートたちも全員が女子高生だ。3人を常に注視している3人以外のクラスメート(特定の誰かではない)が語り手ということで、「わたしたち」を主語として紡がれる。

「私は基本的に三角関係を書きたくないんです。三角関係でドラマを盛り上げるのは作法として安易だと思うので。それが『裏ヴァージョン』という小説で三角関係を扱った時に、書き方によっては面白くなると思えた。その時に今回の女子高生3人の物語のアイディアも思いついて作中に記しました。恋愛関係ではなく疑似家族に設定したのは、そうすることで子どもの虐待など、今日的な問題にも触れられると思ったからです」

 この小説には「疑似」ではない実際の親子関係も描かれ、そこには暴力が存在する。しかし暴力を行使してしまう母親がどこか憎めない人であったりもして、単純な憎悪に収まらない困難が親子の間にあり、だからますます「疑似家族」関係が甘やかなものになる。

「帯に“少女であることは非力で、孤独で、みじめだ。”とありますが、まさにそう感じている少女がこの本を手に取ってくれたら、と思います」

 寡作で知られると共に熱烈なファンも多く、ゆえに松浦さんの新作の登場は常に事件の様相を帯びる。本書の後日談を書いてほしいという声は少なくないが、「3人には今後、幸せになってほしいですね」と言いつつ、小説家としての認識は揺るぎない。

「でも、私が書くと幸せにならないんですよね。幸せな人を書いたって面白くないですから。文学はやはり、不幸な人、孤独な人に寄り添うものであるべきだと思う。私はあまり幸せにならないように気をつけています(笑)」(ライター・北條一浩)

AERA 2017年7月3日号