1月21日の日経新聞朝刊に掲載されたカラー広告(上)と18日の記者会見資料。ともに「高カカオチョコレートと脳の若返り」に言及している(撮影/写真部・岸本絢)
1月21日の日経新聞朝刊に掲載されたカラー広告(上)と18日の記者会見資料。ともに「高カカオチョコレートと脳の若返り」に言及している(撮影/写真部・岸本絢)
明治は、カカオを70%以上含むチョコレートを多数製品化している(撮影/写真部・岸本絢)
明治は、カカオを70%以上含むチョコレートを多数製品化している(撮影/写真部・岸本絢)

 高カカオのチョコレートで「脳の若返り」──。

 バレンタインデーを目前に控えた今年1月後半、ネットにこんな情報が流れた。

「脳にいいならチョコレートをもっと食べよう」

「毎日食べる!」

 歓迎コメントとともに、情報は瞬く間に広がった。

 情報源は内閣府「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」のチームと製菓大手の明治が1月18日に都内で開いた記者会見。「高カカオチョコレートの摂取が大脳皮質の量を増加させ、学習機能を高める(脳の若返り)可能性があることを確認」したという。ここでの発表が、SNSで広がったのだ。

 3日後の1月21日には、日本経済新聞朝刊に、明治と内閣府ImPACTのロゴ入りで「高カカオチョコレートで、脳は若返るか? 高カカオチョコレートの新しい発見」と題したカラーの全面広告が掲載された。この広告とプレスリリースをネットで見たという国立大学の講師(33)は、絶句した。

「パッと見ると、『高カカオチョコレートが脳に効く』と国が認めているように見えます。こういう広告はありなのか」

●科学的根拠なく発表

 内閣府ImPACTは安倍政権が「成長戦略」の一環として重点プログラムに位置づける研究開発事業だ。社会に変革を起こす研究を助成するとして、2014年から始まり、5年間で計550億円を投じる。

 発表では、中高年の男女30人にカカオを70%以上含むチョコレートを1日25グラムずつ、4週間食べてもらったところ、大脳皮質の量が増えたとされている。研究チームが独自開発した、磁気共鳴断層撮影(MRI)による脳画像から大脳皮質の量を数値化する手法で測定した。

 脳に詳しい米カリフォルニア工科大学の下條信輔教授(認知神経科学)は、このデータを発表すること自体、無理があると指摘する。

「論文にもなっていない仮説段階の結果です。『発表』は通常、考えられません」

 食品の健康効果を科学的に調べる場合に一般的なのは、「健康効果があるかもしれない食品」とは知らせずに「食べた人」と「食べない人」に分けて比較する方法だ。ところが、今回は「食べた人」しか調べていない。「高カカオチョコレートを食べたから大脳皮質の量が増えた」かどうかは、この方法ではわからないのだ。

 さらに、大脳皮質の量が増えると「学習機能を高める(脳の若返り)」かどうかもよくわかっていない。下條教授は言う。

「脳の大脳皮質の量が増えたと言いますが、これは『脳の若返り』の根拠にはなりません」

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