数多くの返還困難者を救ってきた大内さんは、最も重要なのは、悩んだらすぐ専門家や相談機関へ行くことだと断言する。

「機構との交渉は一人では無理。生活保護のいわゆる水際作戦と同じ状況になってしまうこともあり得る。救済制度があること、困ったときの応援団がいることを知って頼ってください」

●高校にFPを派遣

 しかし、2015年に労働者福祉中央協議会が調査したところによると、奨学金利用者の約6割が返還期限の猶予制度が存在することすら知らなかった。この現状を打破するために文部科学省が17年度から開始するのが「スカラシップ・アドバイザー」制度だ。機構で研修を受けたファイナンシャルプランナー(FP)を高校に派遣し、奨学金に関する知識の普及強化に努めるという。

 著書に『誰にも聞けない! 子どもの年代別 大学に行かせるお金の貯め方』があるFPの氏家祥美さんは、高校で経済の授業を行ってきた。痛感したのは、生活者視点の欠如だ。

「社会に出て月収をどうやりくりするのか想像がつく子はほとんどいません。教師や親の立場からは言いづらいような奨学金のデメリットを第三者が伝える必要があります」(氏家さん)

 例えば普段の家計相談では、就職したら収入の1割は貯金するようアドバイスしているが、奨学金の返還があるとそれができない。結果として結婚式や住宅の購入など次のライフプランの頭金が用意できず、また借金を重ねてしまうリスクが高まる。親子で考えてほしいのは、その奨学金に「教育効果」が本当にあるのかどうかだ。

「昔のように良い大学=良い就職ではありません。投資に値するか慎重に判断すべきです。教育に費用をかけすぎて老後資金を貯められない親も少なくない。親が用意できるお金、子どもがバイトや奨学金で補えるお金をざっくばらんに話し合うきっかけに、この制度がなればいいですね」(氏家さん)

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