「イスラム・フォビア」

 という言葉であろう。「イスラム恐怖症」や「イスラム嫌悪」と訳される。トランプ氏は15年12月の選挙キャンペーンで、

「すべてのイスラム教徒の米国への入国を完全に閉ざす」

 と表明している。このような「反イスラム」的な性格は、トランプ氏個人のみならず、新政権の特徴となっている。マイケル・フリン国家安全保障担当大統領補佐官は、

「イスラム主義は17億人の(イスラム教徒の)体内にいる悪性のがんであり、摘出されるべきだ」

 と語ったことで知られる。イスラムの過激派と穏健派を区別せず、イスラム教徒全員を「がん」と決めつけた発言だ。

 さらに、今回の「イスラム教徒入国禁止令」の立案者として名前が挙がるスティーブン・バノン大統領首席戦略官兼上級顧問は白人至上主義者で、反イスラム的な言動で知られる。トランプ氏の「イスラム教徒の入国禁止」を支持したとされるジェフ・セッションズ司法長官は黒人や女性に対する差別的な発言で、また、ジェームズ・マティス国防長官はイランの核合意に反対する強硬派として知られている。

 まさに「イスラム恐怖症」政権と言ってもいい顔ぶれだ。

●和解で留学生が急増

「イスラム恐怖症」は9・11米同時多発テロ事件の後、欧米で広がった。

 当時のブッシュ大統領は、

「文明の側に立つか、野蛮の側に立つか」

 と演説してテロとの戦いを掲げ、アフガン戦争、イラク戦争へと突き進んだ。しかし、イラクとアフガニスタンへの駐留で計6800人以上の米兵が死亡し、中東・イスラム世界に反米感情が広がった。そこに、両国からの米軍撤退と「イスラムとの和解」を掲げて登場したのが、オバマ前大統領だった。

 トランプ氏は選挙期間中を通じてオバマ氏の「イスラムとの和解」を批判し、就任1年目の09年にトルコやエジプトで行った演説について「世界謝罪ツアー」とあざけった。

 中東からの米国留学者数は、米国とイスラム世界の関係を如実に示す。

 米国の国際教育研究所が発表している、出身国・地域別の米国への留学生数を見ると、上位20位にサウジアラビア、イラン、トルコ、クウェートと中東の国々が入っている。一国で最多のイスラム教徒を抱えるインドネシアも19位だ。

 サウジアラビアからは6万人を超える留学生が来ていて、中国とインドに続く3位。サウジの人口は3千万強で、うち自国民は2千万強であることを考えれば驚異的な数字である。米国とは正式な国交がないイランからでさえ、1万2千人以上が米国留学している。ともに厳格なイスラム教を信奉する国だが、若者たちの間では米国へのあこがれが強いことがわかる。

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