NGO「国境なき子どもたち」のソーシャルワーカーが教えてくれた。彼女が収容されたのは、殺人を犯した青年と隣り合わせの留置場だった。

「青年がいる部屋にしかトイレがないので、互いに行き来できる状態になっている。少女はもう7日間もここに収容されていて、親が迎えに来ない限り出ることはできないのです」

 別の地域の青少年鑑別所には、自転車を盗んだだけで3カ月拘束されている10歳の少年もいた。

 自治体ごとに置かれた社会福祉開発省の下部組織が青少年鑑別所を管理するが、専門家も不足しているため、未成年者の事案を把握しきれていないのが現状だ。鑑別所内で更生プログラムが行われることはほとんどなく、少年たちは何をするでもなく一日を過ごしている。「国境なき子どもたち」は、こうした青少年鑑別所で道徳教育や心理ゲームなどを行いながら聞き取り調査をし、不当に収容されている子どもたちへの法的サポートを行っている。

 近く成立する見込みの刑事責任年齢引き下げ法案については、国連などが「子どもの人権侵害である」と警鐘を鳴らしており、9歳という年齢の子どもの「責任能力の有無」が議論の一つとなっている。

●犯罪だとわかっても

 フィリピン国内には、その日暮らしで生計を立てている人たちも多い。

 仕事がないために酒びたりになった夫は、妻に責められ、暴力を振るい、別の女性と家を出る。残された妻が一人で子どもを育て家計を支えることは難しく、新しく夫を迎えることでまた、子どもが増える。前夫の子どもは義父による暴力や育児放棄を受け、やがて路上で暮らし始める──。

 これが、犯罪に手を染める子どもたちの現実だ。生きるためにギャングに加わらざるを得なかった9歳の子どもが、仮にその行為が犯罪だとわかっていたとしても、上からの命令に逆らえるだろうか。

 法案成立は、間近だと言われている。9歳の子どもに刑事責任を問うことで犯罪は一時的には減るかもしれない。だが、根本的な解決につながらないことだけは、はっきりしている。(フォトグラファー・清水匡)

AERA 2017年2月6日号