最近でこそ、「オートファジーを活性化することで、有効な治療薬がほとんどない神経変性疾患を治療できるのではと期待されています。オートファジーに着目したがんの薬の臨床試験はすでに米国で始まっています」(水島さん)などと、医療応用への報告も出てきている。しかし、基礎生物学研究所(愛知県岡崎市)で大隅さんとオートファジーの研究に取り組んだ水島さんと吉森さんは、90年代後半当時、オートファジーが「役に立つ」とは誰も考えなかったと口をそろえる。

●高校時代も好奇心旺盛

「役に立つ」より「面白い」を優先するのは、若い頃からだったようだ。福岡県立福岡高校時代、化学部でいっしょだった得田悟朗さん(72)は大隅さんのことをこう振り返る。

「顧問の先生から与えられるテーマはちゃっちゃと早めに片付けて、いかに面白いことをするかに熱中してました。水素ガスを大量に発生させたり、火薬を作ったりもしょっちゅう。よく事故が起きなかったと今になってヒヤヒヤするほどです」

 大隅さんは会見で静かに語った。

「『役に立つ』という言葉が、数年後に事業化できることと同義語になっていることに問題がある。本当に役に立つことは10年後、20年後、あるいは100年後かもしれない」

 国が、産業応用に直接関係がある「役立つ研究」に比べ、基礎研究を軽視しているのは、研究費の配分から見て取れる。

●基礎研究の軽視に警鐘

「私の研究のほとんどは、科学研究費助成事業(科研費)に支えられた」

 と大隅さんが語る、科研費を見てみよう。国が科学研究を支援する研究費の一つで、基礎研究にとって科研費の取得が第一選択肢になる。しかし、年3兆4千億円という国の科学技術関係予算のうち、科研費は2300億円弱。しかも、全国の研究者の応募に対する採択率は3割に届かない。申請書では、基礎研究でさえ、「何の役に立つか」を書く必要がある。

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