「かつてのドラマは、イ・ビョンホンやチャン・グンソクなど、スターの存在ありきだった。現在は四天王と呼ばれるような鉄板の俳優が不在。そのハンディが逆にストーリーを強くして、脚本や監督の力が作品に如実に反映されるようになった」

●地上波凌ぐケーブル局

 森丘さんによると、もうひとつのきっかけは、韓国テレビの多チャンネル化と総合コンテンツ企業CJ E&Mの躍進だ。00年代まではKBS、MBC、SBSの地上波3社がドラマ市場をほぼ独占していた。ところが11年末、ケーブルテレビに新聞社系の総合編成チャンネル4社が参入。また、tvN、OCN、Mnetなど複数のケーブルチャンネルを擁する業CJ E&Mが、地上波ドラマで活躍していた有名俳優や演出、脚本家を次々と登用。視聴率、話題性ともに地上波を凌ぐドラマを制作するようになり、一気に視聴者獲得競争が激化した。

「ケーブル局の特徴は、制作環境が柔軟であること」と、アジアドラマカンファレンスでモデレーターを務めた清州大学キム・チャンソク教授は言う。

 地上波が幅広い世代の視聴者を意識して過激な暴力や性表現をタブー視するのに対し、特定の年齢層や性別に狙いを定めるケーブル局では、より自由な発想と表現が可能だ。

 例えば「失踪ノワールM」(15年)は40代男性をターゲットにしたOCN制作のサスペンス。元FBIの主人公がベテラン刑事とともに死刑囚に投げかけられたヒントをもとに犯罪を捜査する過程を、映画のようにクオリティーの高いビジュアルで描く。

 若者向けで増えているのはウェブに連載された漫画が原作のドラマだ。平凡な女子大生と謎めいた先輩が恋に落ちたことで始まるスリラーロマンス「チーズ・イン・ザ・トラップ」(16年)や朝鮮時代のヴァンパイアが主人公の「夜を歩く士<ソンビ>」(15年)など、奇想天外な物語が受けている。

●バリキャリ母が主人公

 ドラマには、社会の変遷も映し出される。

「“出生の秘密”が一大テーマになったのは、未婚の母が日陰で生きざるを得なかった時代だったため」

『女たちの韓流』などの著書がある文教大学教授の山下英愛教授はこう分析する。

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