「一人でもビル・ゲイツが生まれれば」ノーベル賞受賞・大村教授の思い
2015年12月上旬のスウェーデン、ストックホルム。午後3時には日が沈み夜の闇に包まれる北欧の街が、ひととき華やかな祝賀ムードに沸いた。
年に一度のノーベル賞授賞式と晩餐会。その主役である受賞者の中に、大村智・北里大学特別栄誉教授(80)はいた。
大村教授は、静岡県伊東市の土の中から、ある微生物を発見。その微生物が生産する物質を元に抗寄生虫薬「イベルメクチン」が開発され、アフリカや中南米で多くの人を失明の恐怖から救ったとして、ノーベル医学生理学賞を受賞した。
その授賞式から一夜明けた11日、取材を受けていた大村教授が、はっきりと質問を否定する場面があった。「今回の受賞で、自身の研究に変化は」と問われた時のことだ。
「かなり先を読んで、そこに向かった研究をしている。ノーベル賞をもらったからって変えられるような、そんな安い研究はしていない」
スプーン1杯の土の中にも、無数の微生物が含まれている。その中から、有用な物質を作り出すものを探し当てる。微生物の分離、培養、精製など、その過程は地道な作業の積み重ねで、大勢の人がかかわっている。大村教授率いる研究グループでは、年間2千株もの微生物を調べているという。
「毎日同じようなことの繰り返し。本当にこんな仕事が研究か、と思うんですよ。だけど、その中に、人の役に立つようになるものがある」
大村教授は、少人数で始まった研究室で人材を育てながら、ノーベル賞の選考機関から「卓越した技術」と評価された、化合物を見つけ出す「スクリーニング法」を確立していった。

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