死後強まるカリスマ性 伊藤計劃 病床で10日間で書き上げた作品

がん

2015/10/31 16:00

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「3回生まれ変わってもこんなにすごいものは書けない」。宮部みゆきがその才能に嫉妬した、伊藤計劃。読めばあなたも、その息遣いを感じるはずだ。

 その日の夕食がカレーだと聞いた伊藤聡は、「じゃあ、食べてみる」とベッド脇の母親に言った。もう何日も食欲がなかった。母の和恵(70)がスプーンでカレーを口元に運ぶと、伊藤はそれを口に含んだ。数さじ分だったが、和恵はそれでもうれしい。

「ああ、久しぶりに食事ができてよかったわね」

 それが、母が息子にかけた最後の言葉になった。伊藤のがんはこのとき、全身の6カ所に転移していた。もはや外科手術で取り除くことは難しく、抗がん剤や放射線治療が頼り。モルヒネを飲みながらの闘病だった。

 2009年3月20日。そんな苦しみの日々が終わった。8年半にわたってがんと闘った伊藤は「眠るように、すーっと」(和恵)逝った。34歳だった。

 だが、彼が「伊藤計劃(けいかく)」として世の中に広く羽ばたいていったのは、それからだった。
 
 10年に文庫版になったデビュー長編『虐殺器官』はこれまでに40万部を発行。2作目の『ハーモニー』は星雲賞日本長編部門、日本SF大賞、ベストSF国内篇第1位を獲得し、09年の主要なSFタイトルをさらった。この秋からは伊藤原作の3作品が相次いでアニメ映画化される。

 作家として活動できた期間は3年余り。その死からは、6年がたっている。それにもかかわらず、今なお存在感を増す伊藤計劃。彼は何者なのか。

 20代の頃は、表現への愛情とためらいが交錯した。2浪して武蔵野美術大学造形学部映像学科に入学すると、映画や漫画、音楽に耽溺(たんでき)した。映画に夢中になりすぎて2浪したのだと話す友人もいる。それほど創作が好きだった。

 大学の漫画研究会の後輩で、現在、漫画家として活躍する篠房六郎(37)は、映画に関する伊藤の博識に舌を巻いた。

「同じ作品を見た後で先輩の評論を読むと、映画の視力が違うことに驚いた。私がぼんやりとしか見ていなかったものを、微細に的確に多角的に捉え、新しいものの見方を教えてくれた」

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