
重ねた年の数だけ過ごしているはずなのに、なぜか毎年夏の過ごし方を考える。仕事で汗をかくもよし、綿密に計画したバカンスもよし。しかし、いきあたりばったり、本とともに過ごす夏も、楽しい。
夏の読書といえば、夏休みの読書感想文の宿題を思い出す。プールから帰ってきた蒸し暑い昼下がり、だるい体をアイスキャンディーで冷やしつつ課題図書を読む。溶けたアイスを原稿用紙に垂らしながら書く感想文は、いつもの文章よりよそゆきだ。小学校時代のこの時間で、本嫌いになってしまった人もいるかもしれない。
だが、大人になり8月末の締め切りからも解放された私たちの読書は、なんと自由なことか。まず、お酒が飲める。いきなり何を、と思われるかもしれないが、夏の読書は仕事を忘れて楽しくいこうというのが今回のテーマ。酩酊の時間のなかで、ビジネス書や自己啓発書といった“役に立つ”本から少し離れて、仕事には何の役にも立たなそうな楽しさ重視の読書を心置きなくする贅沢だ。
本とお酒の組み合わせを考えることは、20歳を過ぎないと味わえない楽しみだ。ミステリーにはやはりウイスキーだろうか、日本酒で歴史小説もオツだねぇ、なんて考える。たまの休みなんだから、昼酒だって誰にも文句は言わせない。ハイボールなら少年漫画の一気読み。大人の恋愛小説はフルボディーの赤ワインで、青春ものならリモンチェッロで甘酸っぱく。少量のお酒で日常のスイッチを切れば、本の世界はより親密にせまってきてくれる気がするから不思議だ。
せっかくの夏だから、家を出て、本を読む場所も自在に考えたい。海、旅先、フェス、夜遊び。大人ならではのシーンに応じた読書の楽しみがある。
行き先が決まっていなければ、本に合わせて旅先を選んでしまうのもアリだ。伊坂幸太郎を読むために仙台へ。吉田修一を読みに長崎へ。
知らない街を歩きながら、そこに広がる世界と本の中の場面が重なる一瞬。現実と小説の世界が入り混じる一瞬を求めて、書を捨てずに街へ出るのだ。
※AERA 2015年7月27日号より抜粋