「例えば、エンジン屋はエンジンをつくる、生産技術は生産ラインを効率的に設計する、それぞれの責任分野の目標を達成するのがゴールだった。でもスカイアクティブから、最後は車をつくるんだ、というゴールに意識が集約されたように思う。こういう車を目指すんだ、そのためにはこういうエンジンでないといけないんだ、と」

 かつては、開発側の案を生産側が「こんなデザインの部品なんて作れるわけないだろう。ものづくりを知らんのか」と一喝することもあった。いまのマツダに、そんな光景はない。

 開発担当の常務執行役員、藤原清志(54)は言う。

「世界一の車を目指して、開発から生産の現場までが一つのチームになっている。これが一番の元気のもとではないか」

●マツダは一つになれる

 藤原はスカイアクティブ技術開発をとりまとめた一人だ。

「開発途中で詳細を説明するわけにいかないので、誰も実現を信じてくれなかった。しんどかったですよ。実現できると真剣に信じていたのは、たぶん社内でも3割ぐらいだったのでは」

 世間ではトヨタ自動車の「プリウス」など、ハイブリッド車が環境対応車としての地位を固めつつあった。リーマン・ショック後、業績不振に苦しむマツダの“無謀”な取り組みに、社内からも「ハイブリッドをやらなくていいのか」と疑問の声があがった。藤原はバラバラになりかける開発チームを必死につなぎとめた。

 だからこそ、スカイアクティブ技術が日の目を見たときの感動が忘れられない。

 10年夏、ドイツのベルリン。世界の自動車ジャーナリストらを招き、スカイアクティブ搭載車の試乗会を催した。外観はつぎはぎの過去の車種だが、中には社運をかけた最新技術が詰まっている。

 スムーズで力強い加速、意図した通りに走る操縦性、アウトバーンで飛ばしても燃料があまり減らない燃費の良さ……。試乗したジャーナリストの一人は、こう評した。

「こんな感動を覚える車は人生で2度目。最初はBMWのレース用の車だった。この性能を市販車で実現するメーカーが日本にあるとは」

 藤原は確信した。

「これでマツダは一つになれる。強くなれる」

●作り手の物語に評価

 もっとも、性能やデザインにこだわるほど、費用は高くなり、特別な技術も必要になる。それを採算のとれるコストで、市販できるようにしたのが「モノ造り革新」だ。

 車種ごとの基本的な構造の共通化。コンピューターを駆使した試作コストの削減。無駄を減らすプレス加工方法。13回重ね塗りしたときと同等の深い陰影と鮮やかさを、3回の塗りで実現する塗装技術。さまざまな「革新」の積み重ねで、「1ドル=77円の円高でも利益が出る」ところまで改善した。

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