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 フィギュアスケートグランプリシリーズ中国杯の練習中に、羽生結弦(はにゅうゆづる)(19)が中国のエース閻涵(イェンハン)とが衝突。羽生は頭などを負傷しながら試合に出場した。その行動には感動の声があるのと同時に、物議をかもしてもいる。現場では何が起きていたのか。

 羽生の処置は、米国チームが帯同してきた医師と中国の大会付きの医師により、椅子に座った状態で行われた。医師は、頭とあごの挫傷を止血し、頭をテープでグルグル巻きに。 羽生のコーチ、ブライアン・オーサーは言う。

「最初のうちは、結弦は混乱して言葉を失っていた。だが、だんだん意識がはっきりしてきて、質問にも英語で応対できる状態になった。そして『出場したい』という意思を伝えてきた」

 この日の試合を棄権すると、羽生は12月にスペインで行われるグランプリファイナルへの出場権を自動的に失う。前回王者の羽生としては、3位以内に入り、ファイナル進出の可能性を残したいという事情があった。しかし、頭の出血は脳振盪(しんとう)を疑わせた。その場合、コーチとしては棄権させなければならない。オーサーは言う。

「とにかく健康状態が心配だった。『ここでヒーローになる必要はない』と説得したが、結弦の出場への意思は固かった。もし話し方が普通でない状態だったとしたらもちろん止めたのだが、米国と中国、複数のドクターの診断は『本人が出たいなら許可』。だから私は出場を認めたが、その判断は難しかった」

 衝突からわずか10分後には6分間練習が再開され、羽生も再び氷上へ。その後は自ら閻のところに出向いて、「これはどちらが悪いというものではない。お互い試合に集中しよう」と声を掛け、気遣った。

AERA 2014年11月24日号より抜粋