うつは、日本人の約15人に1人が生涯に一度は経験するといわれるほど、「よくある病気」になってきた。発症には素因や性格傾向が大きく関与する一方で、環境の影響も少なくない。

とくに30 代、40代は、責任が増し、何かと負担が重い年代だ。お金、健康の不安、夫婦の不和、子どもの進路、親の介護、自分の将来、職場では仕事や待遇への不満、人間関係など、うつにつながりやすいさまざまな要因を抱えて生きている。

厚労省の2007年の労働者健康状況調査によると、職業生活に対して強い悩み、不安、ストレスがあると答えた労働者は、約6割に上り、その原因のトップ3は「人間関係」「仕事の質」「仕事の量」だった。

仕事の量の問題、いわゆる「過重労働」は、うつに直結するイメージが強い。しかし、多くの企業で産業医を務めてきた北里大学大学院の田中克俊教授は、

「やりたい仕事に夢中で取り組んでいるときは、夜遅くなろうと休みがなかろうと、気力が充実して疲れはほとんど感じない人が多い。逆にどんなに楽でも、やりたくない仕事を押し付けられてモチベーションが下がれば、ストレスがかかり、うつにもなりやすくなる。もちろん過重労働は避けるべきですが、心の病気対策で最も重視しなければならないのは、ワークモチベーションと言えるでしょう」

ワークモチベーションを維持するポイントは、「本人の努力」と、それに対する「報酬」のバランスだという。

「お金やキャリアの保証といった報酬でてっとり早くモチベーションを上げようとする企業は多いですが、効果は限定的。それよりも会社や周囲から必要な人材と認められること、つまり心理的報酬がモチベーションを高めるのです」(田中教授)

AERA  2014年9月29日号より抜粋