男子柔道・重量級 日本大学3年原沢久喜(ひさよし・21)山口県下関市出身。6歳で柔道を始め、早鞆高校へ。3年時に全国高校総体3位。高校入学時は175cm、66kgだったが、身長が伸びたため1日5食で体重を増やし2階級上げて重量級に。3年で191cm、115kg。現在は120kg(撮影/門間新弥)
男子柔道・重量級 日本大学3年
原沢久喜(ひさよし・21)
山口県下関市出身。6歳で柔道を始め、早鞆高校へ。3年時に全国高校総体3位。高校入学時は175cm、66kgだったが、身長が伸びたため1日5食で体重を増やし2階級上げて重量級に。3年で191cm、115kg。現在は120kg(撮影/門間新弥)

 7年後に開催される東京五輪での活躍が期待される、次世代のエースたち。柔道界には、井上康生が期待を寄せる若き選手がいる。

「重量級が勝たなきゃ勝った気がしない」という往年の柔道ファンは、男子柔道重量級の原沢久喜(21)をぜひチェックしてほしい。昨年の講道館杯で優勝を飾るも、初出場した今年4月の全日本選手権は決勝でベテランに惜敗。8~9月の世界選手権は国内予選1回戦で負傷棄権したため姿さえなかった。それなのに、全日本男子監督・井上康生からメールを受け取った。

「次はおまえの番だぞ。必ず世界を獲ろう」

 シドニーで金メダルを獲得した井上の姿に感激し、小学6年生の文集に「五輪に出たい」と書いた原沢。井上のみならず日本大学柔道部男子監督の金野潤(46)からも期待される理由は、伸びしろの大きさだという。

「彼くらいの結果を出す選手はみんな柔道の完成度が高い。でも彼は、白帯かよ?と言いたくなるほど、組み手も寝技も素人級。運動能力だけでこれだけ勝てるのだからもっと伸びる」

 そう話す金野に「僕の指導者生活最初で最後の才能」とまで言わしめた原石の持ち味は、「強い心と柔軟な頭脳」だ。

 現在の重量級で圧倒的な強さを誇るロンドン五輪金メダリスト、リネール(24=フランス)が参加した日大での合同練習。誰よりも先にリネールの前に立ち、稽古を志願したのは、当時まだ高校3年の原沢だった。

 加えて、柔らかな思考力。部員に考える力を養わせたい金野が課す読書感想文は、他部員がイチローなどプロアスリートの著書を選ぶなか、原沢が読むのは『相対性理論』。リポートを書かせれば、「ニッポン」なるタイトルでアベノミクスやいじめなど社会問題について書く。

「視点が違うし、自分で考える力も凄い。ひとつ言うと、四つ返ってくる」

 師を感心させた柔軟性は、柔道にも生かされている。うまくいかない場合、「どうしたらいいですか?」とは聞かず、原沢は「うまくいかなかったので、こうしてみた。次はこうしてみます」と、創意工夫の痕跡が無数にあるのだ。

「3年後はリネールと勝負できると思う。まずリオで金メダルが目標です」

 1964年の東京五輪を盛り上げながら、最後の無差別級でヘーシンクに敗れた日本柔道のリベンジなるか。想像しただけで、シビれる。

AERA 2013年11月11日号より抜粋