福島第一原発事故から2年半余り。汚染水流出など深刻な事態が続く一方、自分は大丈夫と考える「楽観バイアス」も社会に漂っている。母たちの闘いを追った。

 妊娠中に保育所を確保する「保活」の講習会などで母親と接する機会の多い「サプライズ研究所」代表の袴田玲子さん(32)は、首都圏で幼い子どもを持つ母親たちは、放射能汚染対策に関して、「どうしたらいいのか定まらない不安を抱えている人が非常に多い。さらに時間がたったことで、どんどん不安を周囲に言いにくくなっている」と話す。不安を打ち明ける母親には自らの経験をもとに、「自分で一度とことん調べたほうがいい」とアドバイスする。結局は母親自身が何らかの判断基準を持ち、納得することでしか不安を払拭できないからだ。

 自身も2歳の子どもを持つ母親である袴田さんは、自分が納得できる「マイ・ルール」を確立してから、落ち着いたという。

 当初は野菜を洗うのにもミネラルウオーターを使っていたが、今は「水道水でジャバジャバ洗う」。産地も「とにかく西日本産」と気にしていたが、最近では有機栽培であれば、被災地に近い産地のものでも買っている。

「1年ぐらい前までは汚染された食材を避けることしか考えていなかった。でも、いまは免疫力を高め、不要物を排出できる強い体にし、今後、規制される食品が増えても大丈夫なように好き嫌いなく育てることで、子どもを守れるのではと考えています」(袴田さん)

 都内に住む自営業の女性Cさん(44)は、事故後間もない頃は、食材のすべてを放射能検査済みの宅配食材で賄っていたが、経済的な負担の大きさと「この中からすべての献立を作らなければならない」という精神的負担から、3カ月でギブアップした。

 今はネットで、どの食材で放射性物質が検出されているか毎日情報を確認し、「この食材は宅配、この食材は近くのスーパーでも可能」と判断基準を自ら作り、使い分けをしている。

AERA  2013年9月30日号