カジノ解禁を待つお台場。かつて黒船を迎え撃つ砲台を構えたお台場は、国際カジノ資本の橋頭堡になるかもしれない(写真部・工藤隆太郎)
カジノ解禁を待つお台場。かつて黒船を迎え撃つ砲台を構えたお台場は、国際カジノ資本の橋頭堡になるかもしれない(写真部・工藤隆太郎)

 参院選後に浮上する成長戦略第2弾は「カジノ解禁」だそうだ。世界の富裕層を呼び込み、落とすカネが景気対策になるという。賭博に依存する成長でいいのか。

 安倍政権の成長戦略のひとつが、外国人観光客を呼び込むこと。観光立国推進閣僚会議を設置して観光戦略が練られているが、下部組織である副大臣級のワーキングチーム(座長・鶴保庸介国土交通副大臣)が5月20日発表した「中間とりまとめ」の末尾にこんな表現がある。

「統合型リゾート(IR)について、IR推進法案の制定の前提となる犯罪防止・治安維持、青少年の健全育成、依存症防止などの観点から問題を生じさせないために必要な制度上の措置の検討を関係府省庁において進める」

 統合型リゾートというのは娯楽や飲食、国際会議場・ホテルなどの施設を集めた滞在型の集客施設で、政府や財界が「外国人観光客を集める中核施設」と位置づける観光資源だ。報告書はその重要性を強調しつつ、なぜか犯罪・治安への懸念や依存症対策などを求めている。

「私はカジノとはっきり書くべきだと主張したんですが、まだ時期ではない、と慎重な意見もあり、こんな表現になりました」と座長の鶴保氏は内情を語る。世間でいうIRとは、東京ディズニーリゾートやハウステンボスのような娯楽観光施設のことで、「青少年の健全育成」などことさら強調する必要はない。「制度上の措置」を関係省庁に求めたのは、「ここでいうIRとはカジノを指しているから」と鶴保氏は言う。

 後ろめたさがあるからか、政治家はカジノを「IR」と表現する。「IR議連」という集まりがある。正式には国際観光産業振興議員連盟で、業界の人たちは「カジノ議連」と呼んでいる。

IR議連の当面の目標は、カジノ解禁に道を開くIR推進法案(正式には特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案)を秋の国会で可決することだ。

 この法律は、首相を本部長とする「特定複合観光施設区域整備推進本部」を設置し、カジノができる区域を決め、カジノ運営や反社会的影響を防止する制度設計を2年を目処に行う、というもの。

 さらに2年後をにらみ、もう一つの法律が用意されている。「特定複合観光施設区域整備法案」(仮称)で、運営や監督などを定めた「カジノ業法」。これがなかなか強烈な内容になっている。

 まず監督官庁に、内閣府の外局としてカジノ管理委員会を設置する。公正取引委員会や国家公安委員会などと同格の「三条委員会」、つまり独立性の高い機関で、調査権を含めた強力な権限が付与される。

カジノは大掛かりな資金が動き、収益の一部は財政資金にもなる。運営を犯罪組織から守り、不正を防止するためには捜査権を与えるぐらいの規制や監督が必要、というのがIR議連の考えだ。カジノ解禁は、政府の仕事を増やし、新たなお役所まで生み出す。

 政治家の動きに、「カジノが観光振興になりますかね」と首をかしげる官僚も、「省庁を横断する新組織」という構想には他人事ではいられない。

AERA  2013年7月22日号