原発はもういらない。その思いが生んだ大きなうねりに、一時ほどの勢いがない。安倍政権が脱「脱原発」を鮮明にさせるなか、新たな「脱原発」を模索する人たちに話を聞いた。

 東京・高円寺でリサイクル店「素人の乱5号店」を経営しつつ、商店街で若者たちの居場所作りに取り組んできた松本哉(はじめ)さん(38)は、原発事故後に各地に先駆けて脱原発デモを始めた。11年4月に呼びかけたデモでは、JR高円寺駅周辺に約1万5千人が集まった。現在官邸前抗議に参加している人たちも、最初にこの高円寺デモに参加して触発されたという人が少なくない。しかし、松本さん自身は、脱原発デモは昨年7月以降は主催していない。

「原発は短期決戦で止めなければならないと思っていた。世論でこれだけ多くの人が原発に反対していても止まらない。原発だけでなく、この日本の国にどこかおかしいところがあるからじゃないか。大きいデモや反乱を起こして原発を無理やり止めても、また第2、第3の原発のような問題が出てくるんじゃないかと思った」

 おかしいところとは、この国の利権構造かもしれないし、「自分たち自身の奴隷根性」かもしれないと考える。そこにメスを入れるなら、やはり地域に戻り、人間関係や居場所など、自分たちの手で生活圏をどれだけ作れるか、ということに取り組むべきだと思うようになった。

 松本さんは、原発事故から1年の昨年3月11日からインターネットと弱電波のFMで、ラジオ放送をほぼ週1回のペースで続けてきた。ラジオは、話し手と受け手の距離がすごく近いと感じる。初対面のリスナーからいきなり古い友達のように話しかけられることもしばしばだ。

「地味に人と人のつながりを作っていく。原発を止めるには、遠回りに見えても、実はそれが一番近い道じゃないかと思う」

AERA 2013年3月25日号