9月20日深夜、京都市左京区の住宅街の路上で、同志社女子大学職員の荒川孝二さん(36)が殺害された。9日後に殺人容疑で逮捕された同大職員の天野祐一容疑者(59)は、同じ職場の女性職員に、自宅で待ち伏せするなどのストーカー行為をし、女性から相談された荒川さんに再三、やめるよう求められていた。包丁を心臓深くまで到達させた、決然とした殺害方法は、そうした関係から生じた強い恨みが背景にあるとされる。

 警察が認知しただけでも毎年1万5千件前後に上るストーカー被害。現実にはこの何倍もあるとされ、いつどこで被害者に相談されても不思議はない。そのとき逆恨みなどの危険を避けるには、どうしたらいいのか。

「他の人間関係のトラブルと同じ方法で解決に乗り出しては、絶対にだめです」

 ストーカーやセクハラ被害者にカウンセリングなどをするNPOヒューマニティの小早川明子理事長は、そう力説する。

 殺害される数日前に荒川さんと女性職員は、駐車した車の中で1時間以上、天野容疑者にストーカー行為をやめるよう伝えたとされる。しかし、「相手にも分別や恥じらいがあるはずで、話せばわかる」といった感覚が通用しないのがストーカーだと、自らの被害経験も踏まえ、小早川さんは言い切る。

「介入した人がストーカーと同性の場合、ストーカーは激しく嫉妬し、強い敵意を燃え上がらせ、事態を悪化させる危険性が高くなります」(小早川さん)

 一方、ストーカーからみて「目下」の人が忠告した際のリスクを指摘するのは、法政大学の越智啓太教授(犯罪心理学)だ。

「ストーカーにはプライドが高い人が多い。『なんでお前なんかに言われるのか』と、怒りと攻撃性をふくらませかねません」

 越智さんによると、ストーカーの中には「相手は本当は自分のことが好きだ」と妄想を抱く人がいる。そうしたタイプは、介入者が現れると「こいつが妨害するからうまくいかない」と考え、「邪魔者」を排除しようとする傾向があるという。

 小早川さんと越智さんが挙げる現状での最善策は、「被害者から警察に相談させる」ことだ。

「自分が解決しようという『男気』は、ストーカー相手には危険。被害者に寄り添いつつ、一緒に途方に暮れるほうが、結果的には助けになります」

 と小早川さんは話す。

AERA 2012年10月15日号