10月号フォトジャーナリスト 安田菜津紀 Yasuda Natsuki絵本と「動詞」の生き方 (1/2) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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フォトジャーナリスト 安田菜津紀 Yasuda Natsuki
絵本と「動詞」の生き方

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『明るい覚悟 こんな時代に』落合恵子著 朝日新聞出版より発売中

 落合恵子さんが主宰する「クレヨンハウス」は、幼い頃からの私の心のよりどころだ。45年前、子どもの本の専門店からスタートし、オーガニックレストランや、塗料も食品と同じ基準にした木製玩具を主に集めたコーナーなど、各フロアは優しいこだわりに溢れている。私のお気に入りは一階の、絵本が所狭しと並んでいる空間だ。もし、カメラを片手にふらりとやってきて、一階の片隅でページをめくりながらくすくすと笑い声をもらしていたり、さめざめと泣いていたりする大人がいたら、それは私かもしれない。

 実は私の母は、絵本の読み聞かせを月に300冊すると決めていた人だった。それだけの絵本を探し、選ぶのも一苦労だったはずだ。そんな母が新たな絵本との出会いを求め連れて行ってくれたのが「クレヨンハウス」だったのだ。

 大人になり、昔読んだ絵本のワンシーンがふと、蘇ってくることがある。自分が壁に突き当たったとき、底なしのように思える悲しみの最中にある時、一番かけて欲しい言葉に、私は既に絵本を通して出会っていた。緑豊かな公園で散歩を楽しんでいる時、森の中の動物たちと隠れん坊をして遊ぶお気に入りの絵本を思い出し、思わず想像の世界を膨らます。読み聞かせの記憶は色あせてはいない。むしろ記憶の中で「点」として存在していたはずの絵本が、気づけば今の自分自身とつながって線となり、それが幾重にも折り重なることによって、不思議な立体感が生まれる。

 長年絵本と向き合ってきた落合恵子さんの心のライブラリーには、一体どれほどの絵本が並んでいるのだろうか。落合さんが綴った『明るい覚悟』には、お守りのように大切にしている昔の一冊から、大切な友人に贈ったものまで、示唆に富んだ絵本の数々が登場する。一人の人間が経験できることは限られているかもしれない。けれども絵本は、誰かの物語を共にたどり、その経験を分かち合うことができる。心の振れ幅を、そっと広げてくれるのだ。


(更新 2020/10/ 1 )


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