筒井康隆 1934年、大阪府生まれ。(撮影/写真部・小黒冴夏)
筒井康隆 1934年、大阪府生まれ。(撮影/写真部・小黒冴夏)

 星新一、筒井康隆とともに「SF御三家」と呼ばれた小松左京が今年、生誕90年、そして没後10年を迎えた。「作家として学ぶことが多い」と語り、個人的にも交流があった盟友の筒井さんに「小松左京」を語ってもらった。

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──小松左京さんも筒井さんも関西のご出身です。関西は権威に反発する精神、それでいてクールに現実を受け止める傾向があるようにも思います。そのうえで、小松左京さんと筒井さんは性格など似ていると思える点はありますか。

筒井康隆:性格はまったく似ていないと言えます。権威に反撥する精神は共通しているようですが、それも小生にとってはどうでもいいことでした。小松さんは目上の人を立てる人で、長幼の序を重んじているように思えました。SF作家仲間で馬鹿話をしている時は権威をおちょくるようなめちゃくちゃを言って皆を笑わせていましたが、本質的には真面目な人だったと思います。それに比べれば私など、ずいぶんいい加減なものでした。

──作風に関してはいかがでしょう。SFという点では同じかもしれませんが、似ているところ、そうでないところ、など意識したことは。

筒井:新しいことに飛びつくところは一致していました。だからこそ二人ともSFというジャンルを選んだのです。二人ともいろいろな作風で書いていますが、小松さんはすごい知識量の上に大変な勉強家でした。ギャグやナンセンスにも通じていて、ユーモアのある作品にもそれは反映されていましたが、特にハードな長篇になると調査、下調べ、計算などの上に立って、他の追随を許さぬ世界を描ききっていました。私はアイディア本位なので、馬鹿な思いつきを書き続けてきました。だからこそ偶然のように予言的なことも書けたわけです。

小松左京 (c)朝日新聞社
小松左京 (c)朝日新聞社

──小松さんとお会いしたときにどんなお話をされていたのでしょう。

筒井:これは憶えていません。というのも最初はたしかSF関係の会合だった筈なので、二人きりの話はしていないと思います。ご挨拶は「小松です」でも「小松左京です」でもなく、「小松でございます」でした。これは確かです。二人だけの時の話題は、シュールリアリズムだったように思います。小松さんは京都大学でイタリア文学を専攻し、卒論はピランデルロでした。私は大学で美学芸術学を専攻し、卒論はシュールリアリズムでしたから、当然話はその周辺だったろうと思います。あとはやはりSF関係の、その時どきのうわさ話だったでしょうね。

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