学者の世界でも多士済々だ。法学の末弘厳太郎氏(1905年)の名前は法律を学ぶ者の脳裏にすっかり植え付けられているはずだ。29年に「法律時報」(日本評論社)を創刊した。同誌の表紙にはいまでも「末弘厳太郎=創刊」とうたわれている。経済学では、ゲーム理論分野で高名な東大大学院経済学研究科教授の松井彰彦氏(81年)がいる。

 原子力工学者の小出裕章氏(68年)は原発反対を訴えてきた。官僚が多く、体制向きとも思われる開成OBの中では異色の存在と言えるだろう。京大出身で同大原子炉実験所助教を務めた。

 文壇では『戦艦武蔵』の吉村昭氏(45年)、00年に『花腐し』で芥川賞を受賞した松浦寿輝氏(72年)らがいる。音楽界では作曲家の猪俣公章氏(57年)らが名を残す。

 極端な思想に走ったOBもいた。74~75年に連続企業爆破事件に関わった東アジア反日武装戦線の益永(旧姓片岡)利明死刑囚(67年)である。

開成の正門 (撮影/小林哲夫)
開成の正門 (撮影/小林哲夫)

 若いOBにも話を聞いた。東大経済学部出身のクイズプレーヤー・伊沢拓司氏(13年)だ。クイズ研究部のメンバーとして、1、2年時に全国高等学校クイズ選手権(日本テレビ系)で2年連続優勝を果たす。東大在学中にクイズ番組「東大王」(TBS系)に出演。現在は「QuizKnock(クイズノック)」(クイズを題材にさまざまな情報を提供するウェブメディア)の最高経営責任者(CEO)を務める。

 伊沢氏は開成中に入学した数日後のできごとが忘れられないという。

 高校3年生が教室に入ってきて、「これからボート競技の応援練習をするぞ」と怒鳴られた。「はい」と答えると「おーっと言え」と怒られ、体育館に連れていかれて応援歌を歌わされた。歌詞なんて知らないのに「歌え」とどやされ、「あすまでに覚えろ」と言われた。

「理不尽でした。でも、厳しい先輩がだんだんと仲良くしてくれるようになって、躾(しtけ)を学びつつ適度な上下関係ができる。是非のない躾だけは理不尽で、後は理知的に伝える校風です。先輩にも意見しやすい。何ごとも選挙で決める。すぐなじめました」

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