東尾修
東尾修

 西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修さんは、阪神の村上頌樹投手の“強み”を分析する。

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 阪神の村上頌樹投手が5月9日のヤクルト戦で初黒星を喫したが、六回まで無失点に抑え、開幕からの連続無失点はセ・リーグ記録(1963年・中井悦雄=阪神)の31イニングに並んだ。新記録達成はならなかったが、規定投球回に到達し、もちろん防御率0.28はリーグトップだ。

 中身も伴っている。投手の制球力をみる指標「K/BB(奪三振数÷与四球数)」は15.50。四球一つ与えるのに、15個以上の三振を奪うという驚異的な数字だ。さらに、1イニングあたりに出した走者を示す「WHIP」は0.38。3イニングに1人しか出さない計算で、まさに「圧投」といっていいだろう。

 直球の平均球速は145キロ前後。大谷翔平や佐々木朗希のような球威があるわけでもないが、これだけ抑えられている。打者は真っすぐに差し込まれ、カットボールやツーシームといった細かい変化に凡打している。制球力のよさだけでなく、打者が打ちづらそうにしているのは、映像を通じても感じ取れる。打ちづらさで言えば、直球と変化球が同じ位置からまったく同じ腕の振りで出てくるという点、そして直球と変化球が同じ軌道で、打者が球種を見極める地点よりも手元で変化しているのだろう。

 今の野球は「特長一つ」だと、いずれ対策を施されてしまう。佐々木も165キロの直球だけでは打たれる。そこにフォークボールがあるから手を焼く。それも対戦が進めば、打者は慣れてくる。佐々木がスライダーを投げ始めたのも、さらに幅を持たせるためだ。今の野球は「二つ」「三つ」と一線級の何かがないと圧倒的な成績は残せなくなっている。村上でいえば、「制球力」「手元で伸びるように見せられる直球」「同じ軌道から曲がる変化球」だろう。

 ただ、一つひとつが圧倒的な球でないからこそ、ここからが本当の勝負になる。村上のすごさは、高次元ですべてがそろっているからこそ、成り立っているからだ。当然疲れはくるし、その時に投球フォームの再現性はどこまであるか。さらに同じキレの直球、変化球を投げ続けられるか。コンディションが落ちた時に、どれだけ波を少なくできるか。それが年間活躍できるかのカギとなる。

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東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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