名物のカツオのタタキ
名物のカツオのタタキ

 65歳で「若手」と言われる生涯現役の町がある。高知県西部に位置する海辺の漁師町を訪ねた。400年以上前から“カツオの一本釣り”が盛んだ。気張らず自然体に、現役で働き続ける秘訣とは。その暮らしぶりに迫った。

【写真】水揚げされたカツオはこちら

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「ここは定年という概念がない。70代、80代でバリバリ働きゆう人がどっさりおるし、90代でも働きゆう人がおる。だから60代っていったら、ヒヨッコみたいなもんよ」

 高知市から車で約1時間ほどの場所にある、海辺の漁師町、中土佐町・久礼(くれ)。港で水揚げされたばかりの新鮮な魚が並ぶ久礼大正町市場を中心に、昔ながらの街並みが続く。市場では、その日とれたばかりの生のカツオが食べられるとあって、県内外から多くの人が訪れる。

 初鰹の時期を迎え、市場が特に活気付くこの季節。市場の食堂で刺し身に舌鼓を打っていたら、冒頭の会話が聞こえてきた。

 確かに周りを見渡せば、生き生きと立ち働くシニア世代の姿が目立つ。みんなテキパキとよく動き、よくしゃべり、よく笑う姿が印象的だ。働く人々に、現役の秘訣を聞いてみたくなった。

「健康の秘訣? そりゃカツオとニンニクやろ」

 こう言って笑うのは、地元の味を全国に届けようと2007年に久礼大正町市場の商店主ら4人で企業組合を立ち上げ、現在組合の会長として商品作りや販売などを行う川島昭代司さん。企業組合の名称は「企画・ど久礼もん企業組合」。土佐弁の「どくれもん」(素直じゃない人の意味)に、町の名前である久礼をかけたネーミングで、カツオのたたきや加工品などをネットで販売するほか、食堂も切り盛りする。これら加工品や食堂のメニューなどを考案し、76歳にして今も現役で組合を引っ張るのが川島さんだ。

 川島さんは、中学卒業後、15歳で漁師の道に入り、28歳までカツオ一本釣りの船で漁師をしていた。釣り上げた20キロのマグロが目に直撃するという災難を機に、漁師の道を断念せざるを得なくなった。しかし、漁師をやめた後に「大酒飲みという趣味と実益を兼ねて」夫婦で始めたスナックは、今も町の人に愛される大切な場所だ。川島さんは企業組合の仕事と並行し、夜7時から夜中0時ごろまでスナックを開ける。

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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