週刊朝日 2023年3月3日号より
週刊朝日 2023年3月3日号より

 その前に、先生の紹介から。グッチさんは配送関係や映像関係の仕事を持つ51歳。十数年前、カウンセラーの資格を取得するために、話の聞き方である「傾聴」の技術を学んだ。

「受講生どうしで愚痴を聞き合う傾聴の実習が楽しくて」。2008年に資格を取得したあとも、高齢者相手の傾聴ボランティアの活動や、コロナで活動を休止する20年まで、路上で通行人の愚痴を無料で聞く「グチスポット」を展開。これまで愚痴を聞いた人は1千人以上。また自治体のストレス関連イベントに呼ばれて出張グチスポットを開くなど、愚痴聞きのプロとしてその名を広めてきた。

 まずはそんなグッチさんのグチスポットをオンラインで開いてもらい、自分の愚痴を聞いてもらうことにした。路上のグチスポットに来る人は上限の30分をたっぷり使うことが多いというが、「私、気が短いので、愚痴といっても5分くらいで終わっちゃってもいいですか?」と断って、愚痴言いがスタートだ。

 ダイジェストでお届けするとこんな感じ。

「100年以上の歴史……まさかの休刊……今までいろんな雑誌が休刊したけどこんな喪失感は初……週刊朝日のせいじゃないけど今じゃどこへ行っても一番年上で……はい、そうですかとは言いたくなくて……気心知れたホームグラウンドのひとつがなくなることのさみしさとか不安とか……そうは言っても企画のひとつでも出したことあったっけ?」

 などなど、一人ボケ&ツッコミを交えつつ、メモ書きなしで心のうちを機関銃のように吐露。何が5分だよ。気がつけば20分以上、愚痴を夢中でこぼしてるんですけど。

 その間グッチさんはというと、ときどきうなずくのみ。ちょっと心配になったころ、グッチさんがようやく口を開いた。

「長く仕事をしてきた雑誌がなくなることのさみしさを感じていらっしゃるんですね。経済的に苦しくなるなど実質的な不安はないんですか?」

 そりゃあありますけど、とにかく今は「私はさみしいんです!」と言いかけて、自分の心のうちがぼんやり見えてきた。

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