黒川博行・作家 (c)朝日新聞社
黒川博行・作家 (c)朝日新聞社
(週刊朝日2021年8月13日号より)
(週刊朝日2021年8月13日号より)

 ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は、九連宝燈(チューレンポートー)について。

*  *  *

 友だちふたりが我が家に来る毎月一回の定例麻雀会で、よめはんが珍しい役満をアガった──。

 朝からはじめた麻雀が夕方になり、このゲームが終わったら一休みして食事にしようという東(トン)2局、荘家(オヤ)のよめはんが11巡目にローピンを切ってリーチをした。場は筒子(ピンズ)が高い。

 その直後、南家(ナンチャ)のわたしも聴牌(テンパイ)した。面前混一色(メンホン)のイーピン、スーピン、チーピン待ちで、イーピンでアガれば一気通貫だから大きな手だ。ドラは西(シャー)、赤ウーピンも一枚あるから、少なくともハネ満、イーピンなら倍満(ダブル)になる。わたしはそのときトップ目で4万点以上を持ち、よめはんは1万点も持っていなかった。よめはんからこの大きい手をアタって飛ばしてやろうと、わたしは勇躍、追っかけリーチをした。

「ウウッ、アガりたい」よめはんは祈るように牌をツモる。なにかしら大きな手のようだ。よめはんが切った筒子はローピンだけだから、わたしと同じような混一色(ホンイーソ)かもしれない。

 わたしのリーチに対して、よめはんは赤ウーピンをツモ切りした。くそっ、掠(かす)っとる──。

 そうして17順目、わたしの最後のツモ。引いたのはサンピンだった。

「ロンッ」よめはんは高らかに宣言し、手牌を倒した。

「あほくさ。ようそんな薄い受けでリーチしたな」

 面前清一色(メンチン)だから、荘家のハネ満だ。一万八千点は痛い。

「ちゃんと見てみ。これはなに」よめはん、ガッツポーズ。

「あっ……」

 よく見ると九連宝燈だった。純正ではない“できあがり九連宝燈”。よめはんが裏ドラを見るとキュウピンが三枚ものっていた。

 わたしは荘家の役満四万八千点をとられて一発で飛び、チップ二十三枚をとられた。

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黒川博行

黒川博行

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

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