これに待ったをかけたのが吉田学長だった。3月1日、この日は日曜日にもかかわらず、吉田学長名で次のような書面が大学教職員にメールで送付された。

<収入源の「デーサージャリー室」(日帰り手術室)を閉鎖することは聞いていません>

<眼科の先週のオペ件数は3例で、週20件以上の手術をし、月1億5千万円程度の収益がありましたので、この分で行くと病院の収益が大きく下がり、夏のボーナスも全職員に満額支給できない状況です>

<眼科の手術は病院の大きな収入源です。病院長と看護部長には、私から見直しを強く強くお願い致しました>

 関係者によると、この文書が配布される前、古川病院長と看護部長は吉田学長に呼び出されて強い口調で注意されたという。

 旭川医大は本誌の取材に対し、古川病院長と看護部長を呼び出した一件についてこのように説明した。

「昨年3月に古川前病院長及び看護部長が吉田学長と話し合われた事実はあります。しかし、眼科の日帰りの手術室をコロナ対応の病棟にすることに対し、吉田学長が古川病院長と看護部長を激しく叱責し、断念させた事実はありません」

 昨年4月に開催された全学説明会では、吉田学長は3月の病院収益が前年比で激減しているため、それを改善した診療科などにインセンティブとして一定金額を配分すると発言した。職員の一部からは、コロナ禍にもかかわらず収益を重視する姿勢に疑問の声も漏れたという。

 内部にこうした緊張関係があった中で対立が表面化したのが、11月の「辞めろ」発言だったとみられる。

「病院の経営改善に取り組む吉田学長は、経営にリスクのあるコロナ患者を受け入れることには消極的だった。古川氏を中心にコロナ対策が進んでいくことに対していら立ちがあったのではないか」(A氏)

 旭川医科大は本誌の取材に対し、この件については1月26日行われた吉田学長の記者会見時に配布した資料が回答のすべてであるとした。

 資料によると、11月に古川病院長からコロナ患者の受け入れを進言された当時は病床の整備が不十分であり、患者を受け入れた場合には「感染症が本院内に蔓延する危険が相当程度認められました」という。

 また、国立大学法人が運営する病院として高度医療が必要な重症患者等が発生した場合には受け入れる義務があり、そのために常に万全の体制を整えおく必要があること、地域医療の最後の砦として院内感染のリスクを最大限排除する必要があることから、「重症患者、妊婦又は新生児等以外の新型コロナウイルス感染症の患者の受け入れについて慎重であるべきと考えていました」という。

 こうしたことから、「役員会としては、吉田学長の判断は有事の判断として適切であったと考えました」とのことだった。

 騒動については文科省が事実確認に乗り出すなど波紋が広がっている。今後、大学では学長選考会議が行われ、吉田学長の責任について話し合われるという。結果が注目される。

(本誌・吉崎洋夫)

※週刊朝日2月12日号の記事に加筆

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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