声楽家らしく抑揚のある話し方。表情もとても豊かだ [撮影/加藤夏子(写真部)、ヘアメイク/藤井康弘、スタイリスト/石山貴文]
声楽家らしく抑揚のある話し方。表情もとても豊かだ [撮影/加藤夏子(写真部)、ヘアメイク/藤井康弘、スタイリスト/石山貴文]
田代万里生 [撮影/加藤夏子(写真部)、ヘアメイク/藤井康弘、スタイリスト/石山貴文]
田代万里生 [撮影/加藤夏子(写真部)、ヘアメイク/藤井康弘、スタイリスト/石山貴文]

 東京芸大で声楽を学んだエリートで、日本のミュージカル界を牽引する一人、田代万里生さん。まるでアスリートのような役への取り組みを明かす。

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※【“ミュージカルがやりたいから芸大へ”は普通じゃなかった? 田代万里生の原点】より続く

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 大学在学中の2003年、「欲望という名の電車」日本初演で本格的にオペラデビュー。父と同じくオペラ歌手の道を順調に歩み始めた彼は、デビューから5年後に、ミュージカルとの運命的な出会いを果たす。

「08年に、『マルグリット』というミュージカルへの出演のお誘いがあって、ロンドンのウエストエンドで世界初演の舞台を観ました。そのときに、『これがミュージカルなら、ぜひやってみたい』と思ったんです」

 以来、オペラやミュージカルだけでなく、歌手としてCDをリリースし、舞台俳優としてストレートプレイにも挑戦するなど、様々なジャンルで活躍している。現在は、舞台「Op.110ベートーヴェン『不滅の恋人』への手紙」で全国を回っている。演出を担当する栗山民也さんとの出会いは、田代さんがまだ高校生だった頃。父が出演した舞台「夕鶴」を観るために、新国立劇場に足を運んだ。

「極限まで余計なものを削ぎ落としたような、日本的な演出に心を奪われました。それまで僕は、華やかなオペラの演出にばかり親しんでいて、シンプルであることをこんなに美しいと感じたことはなかった。美術も、照明も、音楽も、何もかもが印象的でした」

 芸大進学、オペラデビュー、ミュージカルとの出会いを経て、14年には栗山さんが演出した井上ひさしさんの「きらめく星座」に出演。田代さんにとって初めてのストレートプレイだった。

「栗山さんは、常に“音”を大切にしながら演出をされる方で、『きらめく星座』のときも、声楽や楽器を学んできた僕の特性を尊重しながら演出してくださった。栗山さんとは、これからもチャンスがある限り、仕事をご一緒したいと思っています」

 2年前に「ベートーヴェンとその恋人のエピソードを軸に舞台をつくる」という話を聞くまでは、田代さん自身、ベートーヴェンの楽曲を敬遠していたらしい。

「ピアノ曲に関しては、それなりに触れる機会はありました。ただ、テノールの声が引き立つような歌曲はないし、楽譜も論理的でスクエアなイメージがあった。ロマンチックな曲が好きな僕としては、何となく避けていた部分があったんです」

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