今回この作品に出演するにあたり、ベートーヴェンの生涯を描いた映画や、ベートーヴェンについての文献などを片っ端からチェックした。女性関係が派手だったことにも驚かされたが、何よりも、“音楽は芸術である”という思想を最初に貫いた芸術家であったことに感銘を受けた。

「ベートーヴェン以前の作曲家は、商業音楽家として貴族の要望に沿った音楽を創作していましたが、彼はそれに抗った。彼の生き様や恋愛、命がけで音楽を作り続けるその背景を知った上でベートーヴェンの曲を聴くと、全然違う感じに聴こえたんです」

 常に微笑みを絶やさず、声のトーンも明瞭で爽やか。常に前向きに物事に取り組んでいる姿勢が窺い知れる。ただ、日々のルーティンについて聞いたときは、アスリートのような回答もちらほら。

「この舞台の後に、『マリー・アントワネット』でフェルセン伯爵を演じる予定なので、今、その役作りのために食事を変えている最中です。再演ですが、前回の2年前は、朝食はプロテイン入りの豆乳にフルーツグラノーラ、お昼は、好きなものを食べて、夜は納豆2パックと、キムチ100グラムとサラダチキン100グラムという生活を送って8キロの減量に成功しました」

 いわゆる糖質オフダイエットのアレンジだが、夕食も、誰かとご飯を食べるときはルール無視でOKだそうで、「胃は小さくなっているし、味覚も変わるから、『昼にラーメンとチャーハンが食べたい!』とか、そういう欲求はなくなります」とのこと。禁欲的な食事のときは、体内で起こる変化を楽しむ。音楽だけでなく、目の前で起こることをなんでも楽しみに変える。そんな才能に長けた人だ。

「このダイエットだとストレスはたまらないんですが、前回とは年齢も違うし、今は、夕食ルールを無視できる“誰かとご飯を食べる”行為もままならない。なので、今回は、朝食をもう少し人間らしいメニューにしようかと(笑)」

田代万里生(たしろ・まりお)/1984年生まれ。東京芸術大学音楽学部声楽科テノール専攻卒業。在学中にオペラデビュー。2009年、ミュージカル「マルグリット」でミュージカルデビュー。近年の主な出演舞台に「スリル・ミー」「きらめく星座」「ジキル&ハイド」「マリー・アントワネット」「ラブ・ネバー・ダイ」「エリザベート」「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」など。第39回菊田一夫演劇賞受賞。

(菊地陽子 構成/長沢明)

週刊朝日  2020年12月18日号より抜粋