矢野さんは、むしろ三冠馬が誕生しそびれた92年の菊花賞が印象深いという。

「ミホノブルボンが三冠を取ると思っていたら、ライスシャワーに負けた。そのときの競馬場全体がしぼんだ雰囲気をよく覚えています。オグリキャップブーム以降に競馬ファンになった人にすれば、初めて三冠達成を見る機会だったでしょうから」

 さて、史上最強の三冠馬は何か?

 井崎さんはシンボリルドルフを挙げる。

「ディープインパクトが最後方からのロングスパートという、ステイヤー(長距離に強い馬)らしい乗り方をしたときが一番強かったのに対し、ルドルフはどこからでも行ける万能馬でした」

 84年の皐月賞の表彰式で、ルドルフの鞍上・岡部幸雄騎手は1本指を立てた。その指はダービーで2本に、菊花賞で3本になった。既に皐月賞の時点で、騎手は三冠を意識していたわけだ。

 それから22年後、同じことをやった騎手がいた。ディープインパクトにまたがった武豊騎手だ。

 矢野さんに最強馬を尋ねると「デイープに尽きます」ときっぱり。

「ダービーの本馬場入場のときは首を激しく上下させていました。騎手を振り落としたらどうしようと心配になるくらい、気負っていたんです。でもいざ走ったら圧勝。飛んでいました」

 ルドルフとディープ、どちらが最強か? ファイナルジャッジを委ねた鈴木さんの答えは意外だった。

「最強はナリタブライアン。人知を超えた度肝を抜くような強さでした。皐月賞で3馬身半、ダービーで5馬身、菊花賞では7馬身もの差をつけて優勝。距離が伸びるたびに着差を広げるなんて驚異的です。2歳の頃は順風満帆ではありませんでしたが、厳しいローテーションでレースするごとに力をつけていきました。直線での爆発ぶり。胸のすく勝ちっぷりでした」

 決して尽きぬ最強馬論争に、コントレイルも加わることができるだろうか?

(本誌・菊地武顕)

※週刊朝日10月30日号に加筆

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